ビタミンB1(チアミン)とビタミンB1誘導体
ビタミンB1(チアミン)誘導体の体内滞留時間について
1. ビタミンB1とB1誘導体の違い
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ビタミンB1(チアミン)
水溶性ビタミンで、腸から吸収されやすいですが、血液中や組織に留まる時間は短く、余分は尿中に排出されます。-
血中半減期:おおよそ 1〜1.5時間
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体内に長くは蓄積されない
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ビタミンB1誘導体(例:アリナミンに使われる ベンフォチアミン、または オスチアミン、メリチアミンなど)
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脂溶性または親脂性の性質を持たせたものが多く、細胞膜を通りやすくなっています
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組織内に取り込まれやすく、特に筋肉や肝臓などに蓄積される
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血中半減期:おおよそ 4〜10時間(誘導体によって差があります)
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体内滞留は通常のチアミンより長く、1日〜数日レベルで作用が持続する場合があります
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2. 実際の体内動態のポイント
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脂溶性誘導体は血液中よりも組織内に移行して作用するため、血中濃度が下がっても効果は持続します。
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吸収率や代謝は個人差が大きく、肝機能や腎機能によって変わります。
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長期投与や高用量投与でも体内に蓄積されすぎる心配は少ない(安全域が広い)ですが、脂溶性である分、通常の水溶性B1よりゆっくり排泄されます。
ビタミンB1(チアミン)とビタミンB1誘導体の主な違いについて、より詳しく説明します。
ビタミンB1(チアミン)
特徴:
- 水溶性ビタミン
- 体内での吸収率が比較的低い(吸収率約8-15%)
- 血中濃度が上がりにくく、持続時間も短い
- 過剰摂取しても尿中に排泄されやすい
体への主な影響:
1. エネルギー代謝
- 糖質(炭水化物)をエネルギーに変換する際の補酵素として働く
- 特に脳や神経系はブドウ糖を主なエネルギー源とするため、B1が不足すると機能低下が起こる
2. 神経系への影響
- 神経伝達物質の合成に関与
- 末梢神経の正常な機能維持
- 不足すると手足のしびれ、反射異常、筋力低下などが起こる
3. 心臓血管系への影響
- 心筋のエネルギー代謝をサポート
- 不足すると心不全、むくみ(浮腫)が起こることがある
4. 消化器系への影響
- 胃腸の蠕動運動を正常に保つ
- 食欲の維持
- 不足すると食欲不振、便秘、消化不良が起こる
5. 精神面への影響
- 集中力の維持
- 情緒の安定
- 不足するとイライラ、不安感、抑うつ傾向が出る
6. 欠乏症
- 脚気:むくみ、動悸、息切れ、手足のしびれ
- ウェルニッケ脳症:意識障害、眼球運動障害、歩行障害(主にアルコール依存症患者)
ビタミンB1誘導体
代表的なものにフルスルチアミン、ベンフォチアミン、アリチアミンなどがあります。
特徴:
- 脂溶性に改良されている
- 体内への吸収率が高い(通常のB1の数倍〜10倍以上)
- 血中濃度が高く維持され、持続時間も長い
- 組織(特に神経組織)への移行性が良い
- 体内に蓄積されやすい
体への主な影響:
通常のB1と同じ基本的な働きに加えて:
1. より強力な疲労回復効果
- 高い組織移行性により、筋肉や神経への効果が強い
- 慢性疲労の改善
2. 神経痛・神経炎への効果
- 末梢神経障害の改善効果が高い
- 坐骨神経痛、三叉神経痛などの治療に使用
- 糖尿病性神経障害の症状緩和
3. 筋肉痛・関節痛への効果
- 乳酸の代謝促進
- 運動後の回復促進
4. 眼精疲労への効果
- 目の筋肉や神経の疲労回復
- 調節機能の改善
5. 腰痛・肩こりへの効果
- 血行促進作用
- 筋肉の緊張緩和
ビタミンB1とB1誘導体の比較表
| 項目 | ビタミンB1(チアミン) | ビタミンB1誘導体 |
|---|---|---|
| 溶解性 | 水溶性 | 脂溶性 |
| 吸収率 | 低い(8-15%) | 高い(数倍〜10倍以上) |
| 血中濃度 | 上がりにくい | 高く維持される |
| 持続時間 | 短い(数時間) | 長い(半日〜1日) |
| 組織移行性 | 普通 | 優れている(特に神経組織) |
| 体内蓄積 | されにくい | されやすい |
| 排泄 | 尿中に速やかに排泄 | ゆっくり排泄 |
| 主な用途 | 日常的な栄養補給、予防 | 治療目的、症状改善 |
| 効果実感 | 穏やか | 比較的早く実感できる |
| 適応症 | 欠乏予防、健康維持 | 神経痛、筋肉痛、眼精疲労、疲労回復 |
| 入手方法 | 食品、サプリメント | 医薬品(OTC含む)、一部サプリメント |
| 価格 | 安価 | 高め |
| 代表的製品 | 一般的なビタミンB群サプリ | アリナミンEX、ナボリンS など |
| 食品からの摂取 | 可能(豚肉、玄米、大豆など) | 不可能(合成品のみ) |
| 1日推奨量 | 成人男性1.4mg、女性1.1mg | 製品により異なる(50-100mg程度) |
| 副作用 | ほとんどなし | 稀に胃腸障害、発疹 |
| 過剰摂取リスク | 低い(水溶性で排泄) | 注意が必要(脂溶性で蓄積) |
実用上の違い
通常のビタミンB1:
- 日常的な栄養補給、健康維持に適している
- 食品から摂取しやすい(豚肉、玄米、大豆など)
- 比較的安価
- サプリメントとして気軽に摂取できる
ビタミンB1誘導体:
- 疲労回復、神経痛、筋肉痛などの治療目的に使われる
- 医薬品として処方されることが多い(アリナミンEXなど)
- より効果が実感しやすい
- 価格は高め
まとめ
どちらも最終的には体内で同じ活性型(チアミンピロリン酸)に変換されて働きますが、吸収効率と体内での利用効率が大きく異なるのが最大の違いです。
- 予防・健康維持 → 通常のビタミンB1で十分
- 治療・症状改善 → ビタミンB1誘導体がより効果的
自分の目的や症状に応じて使い分けることが大切です。