ライティング戦略

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染谷昌利氏の「行動を促す」ライティング戦略


1. 文章の種類と目的

文章(ライティング)にはいくつかの種類があります。

  • 面白い文章:エンタテイメント、物語など。
  • 美しい文章:エッセイ、詩など。
  • 専門的な文章:教科書・学術書、レポートなど。
  • 伝える文章:メッセージ、セールスライティングなど。

文章を書く目的は、理解を促す(マニュアルなどの物理的変化)、共感・同意を促す(精神的変化)、行動を促す(物理的変化)の3つに分類されます。この資料では、特に行動を促すライティング戦略に焦点を当てています。

2. 文章の構成要素と主張

文章は基本的に主張自己語りで構成されます。誰かに伝えたいのか、単なる自己満足なのかを自覚して書くことが重要です。

主張(メッセージ)の重要性

心に響く文章は、「自分の」主張を述べることから始まります。主張がない単なる説明はレポートと見なされます。

  • 主張の性質: 主張は原理的に意見が割れるものであり、読者の人生に関係あるか、影響を与えると感じるものが主張となります。議論を巻き起こす発言が典型的な主張です(例:「私が一番うまいカレーだと思うのは東京のこのお店です」)。
  • 主張の論証: 行動を促す論証のプロセスは、**主張 → 論証(説明) → 結論(行動を促す)**の順で構成されます。論証は可能な限り、視点が違う3つ以上の要素(例:歴史的、生物学的、文化的)を用意すると説得力が増します。

主張の位置による型の違い(文章形式)

文章における主張の位置により、伝わり方に違いが生じます。

主張の位置 特徴
頭括型 (逆三角形型) 最初に主張を述べる 主張を見つけやすく、すぐに理解できる。長文では読者が主張を忘れるリスクがある。
尾括型 (三角形型) 最後に主張を述べる 根拠を理解した後に示すため、納得感が高まりやすい。ただし、忙しい読者には不親切で、ビジネス文書では信頼性を損なう可能性がある。
双括型 (ダイヤモンド型) 最初と最後に主張を述べる 冒頭で理解し、根拠の後に再度確認できるため納得感が強い。序論・本論・結論を通じて主張を一貫させることが最も重要。
NG型 主張と論証が直線的 ペンシル型(ストロー型)は避けるべき型として示されています。

3. 行動を促すためのライティング戦略

行動を促すには、読み手には「心の壁」があり、これを乗り越える必要があります。

心の壁とメッセージの種類

心の壁の段階(無関心 → 関心 → 関係 → 行動)によって、伝えるべきメッセージが変わります。

  • 恐怖型: 無関心・関心レベルの読者に有効です。行動しなかったときに失うかもしれない機会を想像させます。
    • 例:「100のことを10しか伝えられない人は、何かを成すことが大変な時代になっている」。
  • 希望型: すでに関係性が生まれているレベルで有効です。
    • 例:「文章が書けることは立派なスキルで、あなたの生活を大きく変化させることができます」。

伝わるとは(説明と共感)

  • 説明客観的情報であり、理解を促しますが「理解≠行動」です。
  • 共感主観的情報であり、行動を促します。客観と主観の配分によって、伝わる要素が変わります。

文章の質の決定要素

文章のクオリティを決定する要素として、コンテンツ(誰が、何を、誰に向けて書いているか)形式(どのように)、そして**色(個性・キャラクター)**の3つが挙げられます。心の底から出てきた文章は心に響きます。

また、文章は「栄養がある」(役に立つ、人生にプラスになる)と「おいしい」(楽しい、ワクワクする)の両側面をバランス良く満たすことが大切です。

抽象と具体のコントロール

読者に寄り添った言葉を選ぶことが重要であり、アプローチしたい客層に理解できる言葉で伝える必要があります。

  • 抽象的な言葉はピラミッドの頂点側(専門家・教育層)に、具体的な説明は底辺側(初心者・一般的読者層)に伝わりやすいです。
  • 抽象的であることは「共通因数(共通言語)」であるとされ、汎用性が高い一方で、背景にある知識がなければ情報が削ぎ落とされた単語に過ぎません。
  • **「翻訳力」**を身につけ、抽象度を自由に移動させる(抽象的=短い/具体的=長い)ことが求められます。

効果的な3つの文章形式

主張をサポートし、行動を促すための効果的な文章形式として、同格(並列)、対比、因果(時系列)の3つがあります。

  1. 同格(並列): 理解と共感が得られているときに使い、同じようなものを並べて繰り返します。
  2. 対比: 理解と共感が低いとき(反対派と話す)に有効で、話を聞くきっかけになります。譲歩構文(確かに〇〇だが、でも△△だ)は前後対比の一種です。
  3. 因果(時系列): 理解や共感が中程度の状況で使い、納得感を与え、理解から共感への扉を開きます。原因が先で結果が後という時系列を崩さないことが重要です。

4. 人の心を動かす7つの要素

行動を促すためには、心理学的な要素を活用できます。

  1. 返報性(ギブ&テイク): 受けた恩を返したくなる心理を利用します(無料サンプル、アドバイスなど)。大きな要求の後に小さな要求をする「ドア・イン・ザ・フェイス」(ハイボールテクニック)もこれに含まれます。
  2. コミットメント(約束)と一貫性: 人は約束を守ろうとする傾向があります。「フット・イン・ザ・ドア」として、小さなイエスを積み重ねることで大きな実を得ます。一貫したストーリーは、ハロー効果(錯覚資産)を増大させます。
  3. 社会的証明: みんなが褒めるものは良いものだと信じる心理(利用実績、お客様満足度、行列、SNSフォロワー数など)。
  4. 好意: 自分に似ている人、褒めてくれる人、同じゴールを目指す仲間に好意を抱きます。ザイオンス効果(単純接触効果)やメラビアンの法則も関連します。
  5. 権威: 「社会的地位」を持つ者に対して信頼を置く傾向があります。肩書きや服装といったシンボルも権威として作用します。
  6. 希少性: 限られたものほど欲しくなります(限定キャンペーンなど)。行動しなかったときの未来の損をイメージさせるとさらに効果的です。
  7. 物語性: 共感と希望を引き出し、うまくいかない現状からの脱出や挫折からの栄光といったストーリーが、読者自身の人生と置き換えられ、「この人を信じて一緒にがんばろう」という感情につながります。

5. その他のライティングの原則

  • ユーモア: 「面白い人」になる必要はないが、**「少し変わった言語センスのある人」**と思わせるためのユーモアは大切であり、文章に人間性やコンテキストを伝えます。
  • レポート作成の練習: 文章作成の練習として、説明意識(〇〇とは)を持ち、5W3H1R(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように、どのくらい、いくら)を意識することが有効です。
  • 著作権: プロのライターは他者の知的財産に敬意を払う義務があり、無断使用は権利侵害にあたります。引用は可能ですが、引用の必然性があること、自分の文章が主で引用が従であること、改変しないこと、出典を明記することなど、著作権法の要件を満たす必要があります。