使徒

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使徒(しと)

概要

使徒は、狭義にはイエス・キリストの12人の高弟を指すが、それに近い弟子(パウロ、七十門徒など)にもこの語が用いられることがある。原義は、重要な役割を果たしたキリスト教の宣教者(「神から遣わされた者」)および、その宣教者の総称である。

語源

原語のギリシア語は ἀπόστολος (apostolos) で、「遣わされた者」を意味する。転じて「使者」「使節」をも指す。

他の西洋語でもギリシア語の形を踏襲している:

  • ラテン語: apostolus
  • フランス語: apôtre
  • ドイツ語: Apostel
  • 英語: apostle

「使徒」という訳語は、漢訳聖書から継いだものである。

イスラム教においては、ラスール(rasūl, رسول)という語が同じく「使者」の意であり、キリスト教の使徒と似た意味に用いられている。

新約聖書における使用

新約聖書では、ἀπόστολος の語は以下の文書に用いられている:

  • マルコによる福音書
  • マタイによる福音書
  • ルカによる福音書
  • 使徒言行録
  • パウロ書簡
  • ヘブライ書
  • ペトロ書
  • ユダ書
  • ヨハネの黙示録

このうち、マルコ、マタイ、ヘブライ書は文脈上、この単語を単に「派遣されたもの」または「使者」という意味で用いている。他の文書では、固有名詞的に、何か権威ある称号のようなもの(日本語訳でいう「使徒」)として使われている。

ルカの十二使徒観

ルカ(の著者)の十二使徒観ははっきりとしている。ルカ文書(ルカ福音書と使徒言行録)によれば、「十二使徒」とは、最初にイエスによって選ばれた12人の弟子集団である。

十二使徒の条件

  • 旧約時代の神の民・イスラエルの12部族との関連で、12人という枠は維持すべきもの
  • イエスの復活の証人であること
  • イエスと生前をともにした者であること

ルカははっきりとパウロを使徒と認めている。

パウロ書簡による使徒の定義

パウロ書簡は、使徒の基準を以下のように伝えている:

  • 復活した主イエスの証人であること
  • 主イエスに使徒として召されたこと

パウロの使徒観の特徴

  • パウロは「使徒」としての権威を強調している
  • このパウロの使徒としての権威は、使徒ペトロも認めている
  • パウロは、使徒は12人(あるいは、自身を含めて13人)に限定していない

近代批評学では、パウロがルカと同じく、主の兄弟ヤコブを「使徒」とは呼ばないことにも、「使徒」の定義の謎が残るとされる。エルサレム教会の権威が失墜した時期以降、恐らく「使徒」の厳しい定義も消えていったと考えられる。

正教会やカトリック教会は、パウロを「使徒」と呼んで崇敬し、それは現代にまで至る。

十二使徒(十二人)

「十二使徒」は極めてルカ的概念である。ただし、ルカは「十二使徒」という言葉そのものは用いていない。新約中、この言い方は、「ヨハネ黙示録」21章14節のみである。

新約聖書内では、ルカ福音書と使徒言行録を除いては、使徒を12人に限定していないが、イエスの高弟である「十二人」(δώδεκα)については、幾つかの文書に記されている。彼らは、イエスから悪霊を払うための権能を授けられたという。12という数字は、イスラエルの12部族に対応するものと思われる。

十二人の記載

「十二人」のすべての名は、「マルコ福音書」に記されており、「マタイ」、「ルカ」、「使徒言行録」は、これを写したものである。「ヨハネによる福音書」には、「十二人」の存在は語られるが、内数人のみの名が挙げられている。他に、「第1コリント書」、「ヨハネの黙示録」などにも記載がある。

使徒言行録によれば、イスカリオテのユダによる欠員をマティアで埋めたという。

史実性について

福音書によって構成員の名前が異なること、ほとんど言及されない人物もいることから、イエス時代の史実でないと考える研究者もいる。ルカの「十二使徒」という概念は、後に「正統派」教会においてドグマ化し、広く定着した。

亜使徒(Equal to the apostles)

ある地域に初めてキリスト教を伝えた人物や、特定地域の宣教に大きな働きを示した人物に、「使徒」の称号を冠することも一般的である。正教会では、これを亜使徒(使徒に準ずる、あるいは使徒と同等の者の意)と呼ぶ。

  • 東洋の使徒フランシスコ・ザビエル
  • スラブの使徒、またはスラブの亜使徒キリル(チリロ)とメトディウス(メフォディ)
  • 日本の亜使徒聖ニコライ

イスラム教における使徒

イスラム教での使徒(ラスール)とは、ある特定の共同体の中から選ばれ、その共同体に遣わされて、神(アッラーフ)から授かった言葉を伝える使命を啓示された者のことである。

ムハンマド

ムスリム(イスラム教徒)にとっては、ムハンマドこそ全人類・全ジンに遣わされた最後の使徒に他ならず、その事実を信じることがイスラム教の根幹のひとつである。そのため、シャハーダやアザーンには「ムハンマドは神の使徒なり」という文言が含まれる。

預言者との関係

ムスリムの中には、律法を伝える使命を啓示されている点で使徒を預言者(ナビー)と区別する、すなわち、使徒は預言者に包括されている、という考え方をする人もいるが、一般には「使徒」と「預言者」は同義であるかのように用いられ、ムハンマドは神の使徒とも預言者とも呼ばれている。