申命記
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旧約聖書の5番目の書である**「申命記(しんめいき)」**について解説します。
申命記は、単なる法律のリストではなく、**モーセによる「遺言」であり、民への「愛と警告の説教」**です。
以下に、要点を分かりやすくまとめました。
1. 申命記とは?(タイトルの意味)
- 位置づけ: 「モーセ五書(トーラー)」の最後の巻です。
- 名前の由来: 英語では Deuteronomy といい、これはギリシャ語で**「第二の律法」**を意味します。
- 日本語の「申命記」: 「命(神の命令=律法)を申(重ねて)説く」という意味です。
- シナイ山で一度律法が与えられましたが、その時の世代は荒野で死に絶えました。約束の地に入る**「新しい世代」に向けて、もう一度律法を語り直した**のがこの書です。
2. 時代背景と舞台
- 場所: ヨルダン川の東側、モアブの平原(約束の地カナンを目の前にした場所)。
- 状況: イスラエル民族のエジプト脱出から40年が経過しています。
- 話し手: 120歳になった指導者モーセ。彼は約束の地に入ることが許されなかったため、死を前にして民に最後の演説を行います。
3. 全体の構成(3つの説教)
申命記は、大きく分けてモーセの3つの説教で構成されています。
- 歴史の回顧(1章〜4章)
- 過去40年間の荒野の旅を振り返ります。「神はいかに忠実であったか、民はいかに不従順であったか」を語り、過去の失敗から学ぶよう促します。
- 律法の再確認と適用(5章〜26章)
- 十戒の再確認(5章)。
- 礼拝、祭り、裁判、戦争、食物規定、社会正義(貧しい人への配慮)など、新しい土地で生きるための具体的なルールを説きます。
- 契約の更新と未来への警告(27章〜34章)
- 神に従う時の「祝福」と、背く時の「呪い」の提示。
- 後継者ヨシュアの任命。
- モーセの歌、祝福、そしてモーセの死。
4. 最も重要なメッセージ:「シェマ」
申命記の中で最も有名で、ユダヤ教において最も重要な聖句が6章にあります。これを**「シェマ(聞け)」**と呼びます。
「聞け、イスラエルよ。我らの神、主は唯一の主である。あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。」(申命記 6:4-5)
- 唯一神信仰: 多神教の世界(カナン)に入っていく民に対し、「神はただひとり」であることを強調しました。
- 愛の命令: 律法は単なる規則厳守ではなく、「心から神を愛する」関係性が土台であることを教えています。
- ※イエス・キリストも「最も重要な戒め」としてこの箇所を引用しました(マルコ12:29-30)。
5. 申命記のキーワード:祝福と呪い
申命記の神学的な核心は**「選び」**にあります。 モーセは民の前に「いのちと死、祝福と呪い」を置き、どちらを選ぶか決断を迫ります(30章19節)。
- 従順 = 祝福: 神を愛し、律法を守るなら、国は栄え、豊かな実りがある。
- 不従順 = 呪い: 神を捨て、偶像を拝むなら、国は滅び、民は離散する。
この「申命記的歴史観(因果応報の原則)」は、その後のヨシュア記から列王記までの歴史書のベースとなっています。
6. 新約聖書との関係
申命記は、新約聖書で非常に多く引用される書の一つです。
- イエスの荒野の誘惑: イエスが悪魔から誘惑を受けた際、撃退するために引用した3つの聖句は、すべて申命記からのものでした(8:3, 6:16, 6:13)。
- 律法の完成: イエスは申命記の律法を廃止するのではなく、その精神(神への愛と隣人への愛)を完成させる者として描かれています。
まとめ
申命記は、**「神の愛に対する応答として、人間はどう生きるべきか」**を説いた書です。 新しい生活(約束の地)に入る前に、「過去を忘れず、神を第一とし、愛を持って御言葉に従え」という、老指導者モーセの熱い魂の叫びが記されています。