社長の仕事
社長の仕事を一言で言うと、
**「会社が生き残り、成長し続ける状態をつくること」**です。
もう少し整理すると、次の5つに集約されます。
社長の5つの仕事
1. 方向を決める(意思決定)
-
何をやるか/何をやらないかを決める
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誰を顧客にするか、どこで勝つかを選ぶ
-
不確実な中で決断するのが社長の役割
2. お金を切らさない
-
資金繰り・キャッシュフローの把握
-
投資とコストの優先順位付け
-
倒産しない状態を守るのは社長の責任
3. 人と組織をつくる
-
採用・配置・評価の最終責任者
-
価値観(ミッション・バリュー)を示す
-
社長がいなくても回る組織を目指す
4. 仕組みをつくる
-
属人化をやめ、再現できる形にする
-
権限委譲し、自分はボトルネックにならない
-
「頑張らなくても成果が出る構造」を作る
5. 未来に時間を使う
-
中長期の戦略・次の成長の種を考える
-
競合・市場・技術の変化を見る
-
今日の売上より明日の勝ち方に集中
よくある誤解
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❌ 社長=一番働く人
-
❌ 社長=何でもできる人
▶︎ 正解:社長=「決める人・任せる人」
一言まとめ
社長の仕事は「自分が頑張らなくても会社が伸びる状態をつくること」
以下に、創業期/成長期/拡大期で変わる「社長の仕事」を一目で分かる形で整理します。
会社フェーズ別|社長の仕事の変化
① 創業期(0→1)
目的:生き残る・最初の勝ち筋を見つける
社長の主な仕事
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顧客に会い、課題を理解する
-
商品・サービスを形にする(PMF探索)
-
売上を自分で作る
-
資金繰りの管理
-
最初のメンバー採用
社長の役割
- プレイヤー兼意思決定者
重要指標
-
顧客の反応
-
初回購入・継続利用
-
キャッシュ残高
やってはいけない
-
完璧なプロダクト作り
-
早すぎる仕組み化・分業
② 成長期(1→10)
目的:再現性のある成長を作る
社長の主な仕事
-
勝ちパターンの言語化・仕組み化
-
採用・育成(特にミドル層)
-
権限委譲と組織設計
-
KPI設計・数字管理
-
競合を意識した戦略設計
社長の役割
- プレイヤー → マネージャー
重要指標
-
LTV / CAC
-
リピート率
-
組織の生産性
やってはいけない
-
いつまでも現場に居座る
-
社長判断の属人化
③ 拡大期(10→100)
目的:会社を長く勝たせ続ける
社長の主な仕事
-
中長期ビジョンと戦略策定
-
事業ポートフォリオ設計
-
Moat(競争優位)の構築
-
企業文化の定着
-
外部との関係構築(投資家・アライアンス)
社長の役割
- 経営者・象徴・意思決定者
重要指標
-
市場シェア
-
利益率
-
組織の自走度
やってはいけない
-
細かい業務への口出し
-
短期数字だけを見る経営
フェーズ別まとめ表
| フェーズ | 社長の役割 | 仕事の中心 |
|---|---|---|
| 創業期 | プレイヤー | 顧客・売上・生存 |
| 成長期 | マネージャー | 再現性・組織 |
| 拡大期 | 経営者 | 戦略・文化・未来 |
最重要ポイント
会社が伸びない最大の理由は、社長の役割がフェーズに合わせて変わらないこと。
会社の成長 = 社長の仕事の変化
以下が SaaS特化・ARR基準で見た「フェーズ別 社長の仕事」 です。
※BtoB SaaSを前提にしています(BtoCでも考え方は同じ)
SaaSフェーズ別|ARRで変わる社長の仕事
① 創業期(ARR 0〜1億円未満)
目的:PMFを見つけて「お金が払われ続ける状態」を作る
社長の仕事
-
顧客に直接会う(営業・CS・インタビュー)
-
価値仮説の検証(PMF探索)
-
MVP設計・優先順位決定
-
初期価格・契約形態を決める
-
最初の営業を自分でやる
-
資金繰り管理(Runway最優先)
見るべき指標
-
初回有料転換率
-
継続利用(2回目・30日後)
-
解約理由(定性)
やってはいけない
-
機能開発への没頭
-
早すぎるスケール思考
-
CACを無視した広告
社長の役割
👉 PMF責任者(プレイヤー)
② 成長期(ARR 1〜10億円)
目的:売上が「再現性をもって」伸びる状態を作る
社長の仕事
-
PMFの言語化(誰に・何を・なぜ)
-
GTM(営業・マーケ)の型づくり
-
採用(営業・CS・開発の中核)
-
権限委譲と組織設計
-
KPI・ユニットエコノミクス管理
-
競合を意識したポジショニング
見るべき指標
-
MRR成長率
-
LTV / CAC
-
チャーン率
-
セールスの再現性
やってはいけない
-
社長営業への依存
-
属人化した成功体験
-
数字を見ない感覚経営
社長の役割
👉 仕組み化責任者(マネージャー)
③ 拡大期(ARR 10〜50億円以上)
目的:競合がいても勝ち続ける会社にする
社長の仕事
-
中長期ビジョン・戦略策定
-
Moat(競争優位)の構築
-
事業ポートフォリオ設計
-
経営幹部の設計・評価
-
投資家・M&A・アライアンス対応
-
企業文化・意思決定原則の定着
見るべき指標
-
Net Revenue Retention(NRR)
-
市場シェア
-
利益率
-
組織の自走度
やってはいけない
-
現場KPIへの過干渉
-
短期MRRだけを見る
-
創業期のやり方への固執
社長の役割
👉 戦略責任者・象徴
フェーズ別 一覧表
| ARRフェーズ | 社長の主役割 | 仕事の中心 |
|---|---|---|
| 0〜1億 | PMF責任者 | 顧客・価値検証 |
| 1〜10億 | 仕組み化責任者 | 再現性・組織 |
| 10億〜 | 戦略責任者 | Moat・未来 |
最重要メッセージ
SaaSが伸びない原因の多くは「ARRフェーズに合わない社長の仕事」をしていること。
ARRが変われば、社長の仕事も必ず変わる。
以下は SaaS CEO向け「1週間の時間配分例」 です。
※BtoB SaaS前提/1週間=約50時間稼働を想定しています。
創業期(ARR 0〜1億)|PMF探索フェーズ
目的:顧客理解と価値検証
| 項目 | 割合 | 具体内容 |
|---|---|---|
| 顧客対応・営業 | 40% | 商談、オンボーディング、インタビュー |
| プロダクト意思決定 | 25% | MVP優先順位、UX確認 |
| 仮説検証・分析 | 15% | 利用ログ、解約理由分析 |
| 採用・組織 | 10% | 初期メンバー面談 |
| 管理・資金繰り | 10% | Runway確認 |
やらない
-
中長期戦略作り
-
大規模開発計画
成長期(ARR 1〜10億)|スケール準備フェーズ
目的:再現性の確立と組織化
| 項目 | 割合 | 具体内容 |
|---|---|---|
| 採用・育成 | 25% | マネージャー・営業採用 |
| 戦略・GTM設計 | 25% | ポジショニング、価格 |
| KPI・数字管理 | 20% | MRR、LTV/CAC |
| プロダクト方針 | 15% | 中期ロードマップ |
| 顧客接点 | 10% | 重要顧客のみ |
| 外部対応 | 5% | 投資家・PR |
やらない
-
社長営業の常態化
-
細かい実装判断
拡大期(ARR 10億以上)|持続成長フェーズ
目的:競争優位と未来づくり
| 項目 | 割合 | 具体内容 |
|---|---|---|
| 中長期戦略 | 30% | ビジョン、Moat設計 |
| 経営幹部マネジメント | 25% | 評価・意思決定 |
| 外部関係 | 20% | 投資家、提携、M&A |
| 組織文化 | 15% | 価値観・採用基準 |
| 数字レビュー | 10% | NRR、利益 |
やらない
-
日次KPIの監視
-
現場オペレーション介入
フェーズ横断の鉄則
-
時間配分は「今のARR」基準で決める
-
自分が一番時間を使っている領域=会社のボトルネック
-
成長しない原因の多くは「社長の時間の使い方のズレ」
以下は SaaS CEOの1日スケジュール例 です。
※BtoB SaaS/平日/集中日(会議を入れすぎない日)を想定しています。
創業期(ARR 0〜1億)|PMF探索フェーズ
テーマ:顧客と価値に向き合う日
8:30–9:00
- KPI軽確認(新規登録/有料化/解約兆候)
9:00–11:30
- 顧客商談・ユーザーインタビュー(2〜3件)
11:30–12:00
- 商談メモ整理/仮説更新
13:00–15:00
- プロダクト優先順位決定(MVP・UX)
15:00–16:30
- 初期メンバーMTG/採用面談
16:30–17:30
- 資金繰り・Runway確認
17:30–18:00
- 学びの整理(何が刺さったか)
やらない
-
長期計画
-
大量会議
成長期(ARR 1〜10億)|スケール準備フェーズ
テーマ:仕組みと人を整える日
8:30–9:00
- 主要KPI確認(MRR・チャーン)
9:00–10:30
- 経営・マネージャーMTG(意思決定中心)
10:30–12:00
- 採用・育成(面談・評価)
13:00–14:30
- GTM・価格・戦略検討
14:30–15:30
- プロダクト方針レビュー(Why中心)
15:30–16:30
- 重要顧客対応(限定)
16:30–17:30
- 数字レビュー/改善指示
やらない
-
社長営業常態化
-
実装レベル介入
拡大期(ARR 10億以上)|持続成長フェーズ
テーマ:未来と競争優位を作る日
8:30–9:00
- 重要指標確認(NRR・利益率)
9:00–11:00
- 戦略・Moat設計(思考時間)
11:00–12:00
- 経営幹部1on1
13:00–14:30
- 投資家/アライアンス対応
14:30–15:30
- 事業ポートフォリオ検討
15:30–16:30
- 文化・採用基準の見直し
16:30–17:30
- 意思決定整理・明文化
やらない
-
日次オペレーション確認
-
現場への細かい指示
共通ルール(重要)
-
午前中=最重要判断
-
会議は意思決定が目的
-
毎日「未来のための時間」を確保
一言まとめ
良いCEOほど「忙しい」ではなく「集中している」。
以下は 「社長が今日から手放す仕事リスト」 です。
※SaaS前提/フェーズ共通で使える即実践版にしています。
社長が手放すべき仕事リスト
① 自分が一番得意な作業
理由:社長がやると、他が育たずボトルネックになる
-
資料作成・提案書修正
-
デモ対応・初期設定
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コードの微修正
→ 60点でOK。任せる
② 判断を伴わない定常業務
理由:社長でなくてもできる
-
定例レポート作成
-
日次KPI集計
-
議事録作成
→ 自動化 or 権限委譲
③ 「過去の成功体験」に基づく介入
理由:今のフェーズでは最適でない
-
営業トークの細かい修正
-
UIの好み押し付け
-
昔うまくいったやり方の強制
→ Whyだけ伝える
④ 緊急だが重要でない仕事
理由:時間を奪われる
-
即レス前提の細かい相談
-
CCだらけのメール
-
意思決定不要のMTG
→ フィルター役を作る
⑤ 自分がいないと止まる仕事
理由:最大のリスク
-
見積承認
-
顧客例外対応
-
採用一次判断
→ 基準化・委任
⑥ 細部の完成度を上げる作業
理由:リターンが小さい
-
表現・デザイン微調整
-
機能の最後の5%
→ 市場に出して学ぶ
⑦ 全員参加が前提の仕事
理由:組織スピード低下
-
社長同席必須MTG
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社長経由の連絡
→ 役割と決裁権を明確化
今日すぐできる実践ステップ(10分)
-
今週の予定を見返す
-
「社長でなくていい仕事」に★をつける
-
★を誰に/いつまでに/基準付きで渡す
手放すと起きる変化
-
社長の時間が未来に向く
-
判断が速くなる
-
組織が自走し始める
以下は 「社長が“手放してはいけない”仕事リスト(逆表)」 です。
※SaaS CEO前提/フェーズ共通で迷ったらここに戻る用です。
社長がやるべき仕事リスト(逆表)
① 会社の「方向」を決める仕事
なぜ重要か:代替不可能
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誰の、どんな課題を解くか(ターゲット・PMF)
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どこで勝ち、どこで戦わないか
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価格・ビジネスモデルの最終判断
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事業の撤退・集中の決断
👉 任せない/最終決裁は社長
② 生き残りを守る仕事(資金・リスク)
なぜ重要か:失敗=即終了
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資金繰り・Runway管理
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大きな投資判断(人・開発・広告)
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契約・法務の重要判断
-
致命的リスクの察知と回避
👉 数字を「見る」だけは委譲可、決断は不可
③ PMF・顧客理解に直結する仕事
なぜ重要か:事業の根幹
-
重要顧客との対話
-
解約・失注理由の一次情報取得
-
価値仮説の更新判断
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「なぜ売れた/なぜ使われた」の解釈
👉 現場には任せても、顧客から離れない
④ 勝ちパターンを作る仕事(再現性)
なぜ重要か:スケールの起点
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PMFの言語化
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営業・CS・GTMの型作り
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KPI設計と意味付け
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優先順位ルールの決定
👉 実行は任せる/設計は社長
⑤ 人と文化を決める仕事
なぜ重要か:後戻りできない
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ミッション・バリュー定義
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採用基準・最終合否
-
幹部の評価・配置
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NG行動の線引き
👉 文化は社長の背中で決まる
⑥ Moat・長期優位を作る仕事
なぜ重要か:競争を終わらせる
-
差別化戦略
-
データ・ネットワークの蓄積判断
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乗り換えコスト設計
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中長期の技術・プロダクト方針
👉 短期数字より未来
⑦ 社外との「顔」になる仕事
なぜ重要か:信用は移譲できない
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投資家・取締役対応
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大型アライアンス・M&A
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ブランド・メディア対応(重要局面)
👉 社長=会社の人格
迷ったときの最終判断
次の問いに Yesなら社長の仕事。
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☐ 判断を誤ると会社が傾く
-
☐ 他に代替できる人がいない
-
☐ 3年後の競争力に影響する
-
☐ 会社の価値観が問われる
一言まとめ
社長の仕事とは「会社の未来に責任を持つ判断」だけ。