ITコンサルティング:第2章

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第2章:ITコンサルタントが扱う典型的な課題

1. 経営課題としてのIT

売上・利益とITの関係
ITは業務効率化の道具として語られることが多いが、本来は売上や利益に直結する経営要素である。顧客データを活用したマーケティング、需要予測に基づく在庫最適化、サブスクリプションモデルの構築など、ITは新たな収益源を生み出す装置になり得る。ITコンサルタントは、ITを単なる「必要経費」として捉え、経営目標との連動を怠っている企業に対し、戦略的な投資対象としての視点を提示する。

コスト削減と成長投資の両立
IT投資はしばしば「コスト削減か、成長投資か」という二択で語られる。しかし実際には、両者を同時に成立させる視点が不可欠である。たとえば、業務自動化による人件費削減は、そのまま新規事業や顧客対応への再投資につながる。ITコンサルタントの役割は、短期的なコスト視点と中長期的な成長視点を統合し、経営判断を支援することにある。

IT投資のROI問題
多くの企業が悩むのが、IT投資のROI(投資対効果)をどう評価するかという問題である。売上増加やコスト削減が数値化しにくい場合、IT投資は「効果が見えないもの」として扱われがちだ。ITコンサルタントは、定量指標と定性効果の両面から成果を整理し、経営者が納得できるロジックで説明することが求められる。


2. よくある失敗パターンへの介入

ツール導入が目的化するのを防ぐ
「他社が使っているから」「最新だから」といった理由でツール導入が先行し、本来解決すべき課題が曖昧になるケースは多い。ツールはあくまで手段であり、導入自体が成果ではない。ITコンサルタントは、ツール導入の前に「そのツールで何を変えたいのか」という目的を明確にする役割を担う。

現場に使われないシステムを回避する
導入時には期待されたシステムが、次第に使われなくなる事例は後を絶たない。その原因の多くは、現場業務との乖離にある。業務実態を十分に把握せずに設計されたシステムは、現場の負担を増やすだけになり、結果として形骸化する。ITコンサルタントには、現場の声を翻訳し、システム設計に正しく反映させる力が求められる。

要件定義の曖昧さを解消する
「走りながら考える」という姿勢が、ITプロジェクトでは致命的になることがある。要件が曖昧なまま進行すれば、手戻りや追加コストが発生し、信頼関係も損なわれる。ITコンサルタントは、初期段階で課題・目的・制約条件を言語化し、関係者の認識を揃えることでプロジェクトを正常な軌道に乗せる役割を果たす。


3. DX案件における立ち位置

DX=デジタル化ではないと説く
DXは単なる紙の電子化やシステム刷新を意味しない。デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織の在り方そのものを変革することがDXの本質である。ITコンサルタントは、デジタル化とDXの違いを整理し、企業にとって現実的かつ本質的な変革プロセスを提示する必要がある。

業務・組織・評価制度の問題に切り込む
DXが進まない最大の要因は技術ではなく、人と組織にある。従来の業務プロセスや評価制度のままでは、新しい働き方やデータ活用は定着しない。ITコンサルタントは、システムだけでなく、業務改革や組織設計、評価制度の見直しまで含めた全体最適を考える役割を担う。

DX疲れを未然に防ぐ
明確な成果が見えないままDX施策が続くと、現場では疲弊感が広がる。「また新しいツールが増えた」「仕事が楽にならない」という不満がDX疲れを生む。ITコンサルタントには、小さな成功体験(クイックウィン)を積み重ね、現場に変革の実感を持たせる設計が求められる。


4. 中小企業特有のIT課題への支援

不在のIT担当者に代わる視点
中小企業では専任のIT担当者がいないことが多く、経営者や現場担当者が兼務しているケースが一般的である。その結果、IT判断が属人的になり、継続的な改善が難しくなる。ITコンサルタントは、外部パートナーとして専門的な知見を提供し、継続的な改善をリードする役割を果たす。

ベンダーロックインの解消
特定ベンダーに強く依存し、選択肢を失う状態は中小企業にとって大きなリスクである。契約内容やシステム構成を理解できないまま任せきりになることで、コストや改善余地がブラックボックス化する。ITコンサルタントは、この構造を可視化し、企業が主導権を持てる健全な関係構築を支援する。

「何から始めればいいかわからない」への道筋
中小企業が最も抱えやすい課題は、スタート地点が見えないことである。ITコンサルタントは、現状整理から優先順位付けまでを行い、無理のない第一歩を示す伴走者としての価値を発揮する。