ITコンサルティング:第3章

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第3章:ITコンサルティングの進め方と方法論

1. 現状分析(As-Is)の進め方

ヒアリングの技術
ITコンサルティングの出発点は、現状を正確に把握することである。その中心となるのがヒアリングだが、単なる聞き取りでは意味がない。重要なのは「表に出ている不満」ではなく、「なぜその不満が生まれているのか」を引き出すことである。経営者、管理職、現場担当者では視点も関心も異なるため、立場ごとに問いを変え、言葉の裏にある前提や制約を読み取る力が求められる。

業務フロー可視化
ヒアリングで得た情報は、業務フローとして可視化することで初めて共有可能な知識となる。属人的な作業、二重入力、承認待ちの滞留などは、口頭では見えにくいが、フローに落とすことで課題として浮かび上がる。ITコンサルティングにおける業務フロー可視化は、システム設計のためだけでなく、関係者の認識を揃えるための重要なプロセスである。

課題の構造化
可視化された情報をそのままでは、解決策につながらない。個別の問題を「経営」「業務」「IT」のレイヤーに分解し、因果関係を整理する必要がある。表面的な症状ではなく、構造としての課題を整理することで、初めて本質的な打ち手が見えてくる。ここにITコンサルティングの専門性が最も表れる。


2. あるべき姿(To-Be)の描き方

経営戦略との整合性
あるべき姿を描く際に最も重要なのは、経営戦略との整合性である。ITだけが先行しても意味はなく、「どの市場で、どの価値を提供するのか」という戦略が前提となる。ITコンサルティングは、経営の方向性を踏まえた上で、業務やITの在り方を具体化する役割を担う。

段階的ロードマップ設計
理想像を一気に実現しようとすると、現場への負荷が過剰になり失敗する可能性が高い。そこで重要になるのが、段階的なロードマップ設計である。短期・中期・長期に分け、「今やるべきこと」と「将来的に目指す姿」を切り分けることで、現実的な変革が可能になる。

100点ではなく70点を目指す理由
ITコンサルティングでは、完璧な設計よりも「動く仕組み」を優先することが多い。100点を目指すと時間とコストが膨らみ、環境変化に対応できなくなる。一方で70点の仕組みであっても、実運用を通じて改善を重ねれば、結果として高い成果につながる。現実解を選ぶ判断力が重要である。


3. 解決策の設計と選択

パッケージ vs スクラッチ
システム構築では、パッケージを使うか、スクラッチ開発を行うかが議論になる。業務をシステムに合わせるのか、システムを業務に合わせるのか、その選択にはメリット・デメリットがある。ITコンサルティングは、将来の拡張性や運用負荷まで含めて判断を支援する。

クラウド・SaaS活用の判断軸
クラウドやSaaSは導入のハードルが低く、スピード感のある改善が可能である。一方で、標準機能に業務を合わせる必要がある場合も多い。セキュリティ、コスト、運用体制を踏まえ、企業にとって適切な使い分けを行うことが重要だ。

内製化と外注の境界線
すべてを内製化するのも、すべてを外注するのも現実的ではない。競争優位に直結する領域は内製化し、それ以外は外注するという考え方が一般的になりつつある。ITコンサルティングは、その境界線を整理し、無理のない体制設計を支援する。


4. 実行支援と定着化

プロジェクト管理の要点
計画がどれほど優れていても、実行されなければ意味はない。進捗管理、課題管理、リスク管理を通じて、プロジェクトを安定的に推進することが重要である。ITコンサルティングは、利害関係者の調整役としても機能する。

現場を巻き込むコミュニケーション
IT導入は現場の協力なしには成功しない。一方的な説明や押し付けは反発を招く。現場の不安や疑問に向き合い、対話を重ねることが定着への近道である。

教育・運用設計の重要性
システムは導入して終わりではない。教育計画や運用ルールを設計しなければ、効果は一時的なものに終わる。ITコンサルティングの最終的な価値は、「使われ続ける仕組み」を作ることにある。