ITコンサルティング:第4章

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第4章:ITコンサルタントとして生きるということ

ITコンサルタントとは、単なる技術者でもなければ、机上の理論を語る評論家でもない。経営と現場、理想と現実の間に立ち、ITを通じて企業の未来に責任を持つ存在である。本章では、ITコンサルタントとして生き続けるために必要なスキル、キャリアの可能性、良し悪しの分かれ目、そしてAI時代の未来像について考えていく。


1. ITコンサルタントに求められるスキルセット

技術スキルの最低ライン

ITコンサルタントにとって技術力は「武器」である前に「前提条件」である。クラウド、セキュリティ、業務システム、SaaS、API連携などの基本構造を理解していなければ、顧客やエンジニアとの会話が成立しない。すべてを実装できる必要はないが、「何ができて、何ができないか」を判断できる水準は必須である。

業務理解力

真に重要なのは、業務を理解する力である。販売管理、会計、在庫、人事、営業など、業務の流れと目的を把握できなければ、ITはただの道具に過ぎない。業務を知らずに語られるDXは、現場にとって負担でしかなく、結果として失敗する。

論理思考・文章力・説明力

顧客はITそのものではなく「成果」を求めている。そのため、複雑な内容を整理し、論理的に説明し、納得感のある言葉で伝える力が不可欠である。提案書、報告書、経営層や現場との議論における説明力は、ITコンサルタントの価値を大きく左右する。


2. キャリアパスの多様性

コンサルティングファーム

戦略系・総合系・IT系などのコンサルティングファームでは、大規模案件や難易度の高いプロジェクトに携わることができる。短期間で幅広い経験を積める一方、高い成果基準とプレッシャーに耐える覚悟が求められる。

事業会社DX担当

事業会社のIT部門やDX推進担当として、長期的に企業変革に関わる道もある。現場に深く入り込めるため、実装力や運用改善力を高めやすい。ITコンサルタントとしての視点を、内部から発揮できるキャリアである。

フリーランス/独立

十分な経験を積んだ後、フリーランスとして独立する道も存在する。裁量の大きさと報酬面の魅力はあるが、自身の価値を自ら証明し続けなければならない。技術力だけでなく、営業力や信頼構築力も含めた総合力が問われる。


3. 良いITコンサルタントと悪いITコンサルタント

顧客目線か、自分目線か

良いITコンサルタントは、常に顧客目線で物事を考える。悪いITコンサルタントは、自分の知識や実績を誇示することを優先しがちである。提案の主語が「顧客」なのか「自分」なのかで、その質は大きく変わる。

長期視点を持てているか

短期的な導入効果だけでなく、数年後も使い続けられるか、組織に定着するかまで考えられているか。長期視点を持つ姿勢こそが、信頼されるITコンサルタントの条件である。

「導入して終わり」になっていないか

システム導入はゴールではない。定着、活用、改善まで責任を持って関与してこそ価値が生まれる。導入後の姿を描けないITコンサルタントは、結果として顧客に負債を残してしまう。


4. AI時代におけるITコンサルタントの未来

AIに代替される業務、されない業務

情報収集、資料作成、単純な分析作業はAIによって代替されていく。一方で、課題の本質を見抜く力、経営判断を支える助言、利害関係者の調整、組織変革への伴走は人にしか担えない領域である。

人にしかできない価値

不安を抱える現場に寄り添い、納得感を持って前進させる力。経営者の言葉にならない悩みを引き出し、意思決定につなげる力。これこそが、ITコンサルタントの本質的価値である。

コンサルタントの役割はどう変わるか

これからのITコンサルタントは「知識を与える人」から「共に考え、共に変革を進めるパートナー」へと進化していく。AIを使いこなしながらも、最終的な判断と責任を人として引き受ける存在であり続けることが、AI時代のITコンサルタントに求められる姿なのである。


ITコンサルタントとは、技術と人、現在と未来を結びつける仕事である。その重みを理解し、覚悟を持って生きる者だけが、長く信頼されるITコンサルタントになれる。