ITコンサルティング

ITコンサルティング:まとめ


ITコンサルタントが社会にもたらす価値

ITコンサルタントは、単にシステムやツールを導入する存在ではない。企業や組織が変わろうとするプロセスに寄り添い、ともに悩み、ともに前に進む「変革の伴走者」である。その役割は、企業単体にとどまらず、社会全体の生産性や持続可能性にも大きな影響を与えている。


1. ITコンサルタントは「会社を変える伴走者」

技術の導入者ではない

ITコンサルタントの価値は、最新技術を知っていることでは測れない。重要なのは、その技術が「なぜ必要なのか」「本当に使われるのか」「現場に何をもたらすのか」を考え抜くことだ。ツールの導入自体は手段に過ぎず、目的はあくまで業務や組織の変革にある。

意思決定の支援者

経営者や管理職は、ITに関して不確実な判断を迫られることが多い。ITコンサルタントは、その不安を解消し、選択肢を整理し、納得感のある意思決定を支援する存在である。答えを押し付けるのではなく、判断できる材料と視点を提供することが、本来の役割だ。


2. 成功するIT活用の本質

小さく始めて大きく育てる

IT活用で失敗するケースの多くは、最初から完璧を求め過ぎることにある。成功するITコンサルタントは、現場で試せる小さな改善から始め、成果を確認しながら段階的に拡張していく。この積み重ねが、結果として大きな変革につながる。

継続改善の文化づくり

ITは導入した瞬間から古くなり始める。だからこそ重要なのは、「一度で終わらせない」文化を組織に根付かせることだ。ITコンサルタントは、改善を回し続ける仕組みや考え方を伝え、企業が自走できる状態へ導く役割を担っている。


3. 読者へのメッセージ

経営者へ:ITを恐れないこと

ITは難解で危険なものではなく、正しく使えば強力な経営の味方になる。分からないことを前提に、信頼できるITコンサルタントと共に考える姿勢こそが、未来への第一歩である。

現場へ:ITを使う主役になること

ITは現場の負担を増やすためのものではない。使う側が主役となり、改善の声を上げることで、ITは本当の力を発揮する。遠慮せず、積極的に関わってほしい。

ITコンサルタント志望者へ:誠実さが最大の武器

技術や知識以上に、人の話を聞き、向き合い、逃げずに考え続ける誠実さこそが、ITコンサルタントの最大の価値である。その姿勢は、必ず顧客と社会からの信頼につながる。


ITコンサルタントは、企業の変化を支え、その連鎖を通じて社会全体の進化に貢献する存在である。その仕事は静かだが、確実に未来を形作っている。

ITコンサルティング:第4章


第4章:ITコンサルタントとして生きるということ

ITコンサルタントとは、単なる技術者でもなければ、机上の理論を語る評論家でもない。経営と現場、理想と現実の間に立ち、ITを通じて企業の未来に責任を持つ存在である。本章では、ITコンサルタントとして生き続けるために必要なスキル、キャリアの可能性、良し悪しの分かれ目、そしてAI時代の未来像について考えていく。


1. ITコンサルタントに求められるスキルセット

技術スキルの最低ライン

ITコンサルタントにとって技術力は「武器」である前に「前提条件」である。クラウド、セキュリティ、業務システム、SaaS、API連携などの基本構造を理解していなければ、顧客やエンジニアとの会話が成立しない。すべてを実装できる必要はないが、「何ができて、何ができないか」を判断できる水準は必須である。

業務理解力

真に重要なのは、業務を理解する力である。販売管理、会計、在庫、人事、営業など、業務の流れと目的を把握できなければ、ITはただの道具に過ぎない。業務を知らずに語られるDXは、現場にとって負担でしかなく、結果として失敗する。

論理思考・文章力・説明力

顧客はITそのものではなく「成果」を求めている。そのため、複雑な内容を整理し、論理的に説明し、納得感のある言葉で伝える力が不可欠である。提案書、報告書、経営層や現場との議論における説明力は、ITコンサルタントの価値を大きく左右する。


2. キャリアパスの多様性

コンサルティングファーム

戦略系・総合系・IT系などのコンサルティングファームでは、大規模案件や難易度の高いプロジェクトに携わることができる。短期間で幅広い経験を積める一方、高い成果基準とプレッシャーに耐える覚悟が求められる。

事業会社DX担当

事業会社のIT部門やDX推進担当として、長期的に企業変革に関わる道もある。現場に深く入り込めるため、実装力や運用改善力を高めやすい。ITコンサルタントとしての視点を、内部から発揮できるキャリアである。

フリーランス/独立

十分な経験を積んだ後、フリーランスとして独立する道も存在する。裁量の大きさと報酬面の魅力はあるが、自身の価値を自ら証明し続けなければならない。技術力だけでなく、営業力や信頼構築力も含めた総合力が問われる。


3. 良いITコンサルタントと悪いITコンサルタント

顧客目線か、自分目線か

良いITコンサルタントは、常に顧客目線で物事を考える。悪いITコンサルタントは、自分の知識や実績を誇示することを優先しがちである。提案の主語が「顧客」なのか「自分」なのかで、その質は大きく変わる。

長期視点を持てているか

短期的な導入効果だけでなく、数年後も使い続けられるか、組織に定着するかまで考えられているか。長期視点を持つ姿勢こそが、信頼されるITコンサルタントの条件である。

「導入して終わり」になっていないか

システム導入はゴールではない。定着、活用、改善まで責任を持って関与してこそ価値が生まれる。導入後の姿を描けないITコンサルタントは、結果として顧客に負債を残してしまう。


4. AI時代におけるITコンサルタントの未来

AIに代替される業務、されない業務

情報収集、資料作成、単純な分析作業はAIによって代替されていく。一方で、課題の本質を見抜く力、経営判断を支える助言、利害関係者の調整、組織変革への伴走は人にしか担えない領域である。

人にしかできない価値

不安を抱える現場に寄り添い、納得感を持って前進させる力。経営者の言葉にならない悩みを引き出し、意思決定につなげる力。これこそが、ITコンサルタントの本質的価値である。

コンサルタントの役割はどう変わるか

これからのITコンサルタントは「知識を与える人」から「共に考え、共に変革を進めるパートナー」へと進化していく。AIを使いこなしながらも、最終的な判断と責任を人として引き受ける存在であり続けることが、AI時代のITコンサルタントに求められる姿なのである。


ITコンサルタントとは、技術と人、現在と未来を結びつける仕事である。その重みを理解し、覚悟を持って生きる者だけが、長く信頼されるITコンサルタントになれる。

ITコンサルティング:序章


序章:なぜ今、ITコンサルティングなのか

かつてITは、企業活動を支える裏方の存在だった。会計処理を自動化する、在庫管理を正確にする、事務作業を効率化する――こうした目的のためにITは導入され、あくまで「業務効率化の手段」として位置づけられてきた。IT投資はコストとして扱われ、その効果は人件費削減や処理時間短縮など、比較的分かりやすい指標で評価されていたのである。

しかし現在、ITの立ち位置は根本的に変わった。市場環境は急速に変化し、顧客ニーズは細分化・高度化している。競合は国内だけでなく、最初からデジタルを前提に設計された海外企業やスタートアップが相手になる。このような状況下では、ITを前提にビジネスモデルや業務プロセスを設計しなければ、競争そのものに参加できない。もはやITは単なる「導入対象」ではなく、経営戦略そのものと言ってよい存在になったのである。

近年、日本でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が広く使われるようになった。だがDXはしばしば誤解されている。クラウドを導入すること、AIやRPAを使うこと、最新のSaaSを入れること自体がDXだと捉えられがちだ。しかし、それらは手段に過ぎない。DXの本質とは、デジタル技術を活用して「どのような価値を生み出すか」「どのように稼ぐ構造を作るか」を問い直すことにある。ITは経営の選択肢を広げるものであり、戦略そのものに組み込まれて初めて意味を持つ。

一方で、日本企業は複数の構造的課題に直面している。最も深刻なのは人材不足である。特にIT人材は慢性的に不足しており、採用競争は激化する一方だ。その結果、限られた人材に業務が集中し、システムや業務ノウハウが特定の担当者に依存する「属人化」が進む。担当者が異動・退職すれば、誰も全体像を把握できないという状況は珍しくない。

さらに、多くの企業ではレガシーシステムが足かせとなっている。長年改修を重ねてきた基幹システムは複雑化し、変更に時間とコストがかかる。新しい施策を打ち出そうとしても「システムが対応できない」という理由で断念せざるを得ないケースも多い。これは大企業に限った話ではない。中小企業でも、Excelや古いパッケージソフトが実質的な基幹システムとなり、拡張性や可視性に限界を抱えていることが多い。

大企業と中小企業ではIT課題の表れ方は異なるが、共通しているのは「ツールはあるが成果が出ない」という現象である。高価なシステムを導入したにもかかわらず、現場では十分に使われていない。データは蓄積されているが、経営判断には活かされていない。これはITそのものの問題ではなく、経営と業務とITが分断されていることに原因がある。

こうした背景の中で、ITコンサルティングの役割は従来以上に重要性を増している。ITコンサルティングは、単に「どのシステムを入れるか」を提案する存在ではない。本質的な役割は、経営者の描くビジョンや戦略を理解し、それを業務プロセスやIT要件に落とし込むことである。経営の言葉と技術の言葉はしばしば乖離している。その間をつなぎ、双方が同じゴールを共有できるようにする「翻訳者」としての役割が、今まさに求められている。

従来の日本企業では、ITはベンダー任せにされることが多かった。要件定義から設計、開発、運用までを外部に委ね、自社は発注者として関わるだけという構図である。しかしこのモデルには限界がある。ベンダーはシステムを作る専門家ではあるが、企業の経営課題に最後まで責任を持つ立場ではない。その結果、システムは完成したが経営課題は解決しない、という事態が繰り返されてきた。

現在は、内製化や外部パートナーとの対等な協働へと舵を切る企業が増えている。すべてを自社で抱えるのではなく、戦略や意思決定は社内で行い、必要な部分を外部と連携する形だ。その際に重要になるのが、経営視点とIT視点の両方を理解する存在であり、まさにITコンサルティングが担うべき役割である。

本書の目的は、こうした時代背景を踏まえ、ITコンサルティングとは何をする仕事なのか、そしてどのように価値を発揮すべきかを体系的に示すことである。対象読者は、IT活用に課題を感じている経営者や事業責任者、現場でDX推進を任されている情報システム部・DX担当者、そしてITコンサルティングに携わる人材やSE、フリーランスとしてこの分野に挑戦したいと考えている人々である。

ITはもはや専門家だけのものではない。経営に関わるすべての人が、ITを理解し、活用し、意思決定に組み込む時代が到来している。本書が、ITを「分からないもの」「難しいもの」から、「経営を前に進めるための武器」へと変える一助となれば幸いである。

ITコンサルティング:第1章


第1章:ITコンサルタントとは何者か

1. ITコンサルタントの定義と本質

ITコンサルタント=システムに詳しいだけの人ではない

ITコンサルタントと聞くと、「IT知識が豊富な専門家」「システムのプロフェッショナル」というイメージを持たれがちだ。しかし、それはこの職業を表層的に捉えた理解に過ぎない。ITコンサルタントとは、単に技術やツールに精通している者ではなく、「ITという手段を用いて、顧客の経営課題を解決に導くプロフェッショナル」である。

企業がITコンサルタントを必要とする場面は、「どのシステムを買うべきか」という技術選定の局面だけではない。「なぜ業績が伸び悩んでいるのか」「なぜ現場の生産性が上がらないのか」といった、経営の根幹に関わる課題に直面したときこそ、彼らの出番となる。彼らにとってITはあくまで手段であり、目的ではない。

「課題解決のプロ」としての役割

ITコンサルタントの本質は、表面的な問題の背後にある「真因」を見抜くことにある。「システムが使いにくい」「Excel作業が限界だ」という顧客の声に対し、その裏にある業務プロセスの不備、組織構造の歪み、あるいは意思決定プロセスの遅れといった構造的問題を洞察する。彼らはそれらを整理し、企業が進むべき道筋を指し示す課題解決の専門家である。

技術 × 経営 × 現場理解

優れたITコンサルタントには、三つの視点が不可欠である。第一に技術、第二に経営、第三に現場理解だ。経営戦略を理解せずにIT導入を語るコンサルタントは投資対効果を示せず、現場を知らずに設計するコンサルタントは形骸化した仕組みを生み出す。これら三要素を統合し、実行可能な解決策を設計できる人間こそが、真のITコンサルタントである。

2. ITコンサルタントと他職種との違い

SIer/システムエンジニアとの違い

SIerやシステムエンジニアは、与えられた要件に基づきシステムを構築する役割を担い、「決められたものを正しく作ること」を目的とする。対してITコンサルタントは、「そもそもその要件は妥当か」「ITで解決すべき問題なのか」を問い直す立場にある。発注側の視点に立ち、何を作るべきか(What)から共に考える点が大きな違いである。

経営コンサルタントとの違い

経営コンサルタントは、事業戦略や組織改革など経営全般を対象とする。一方でITコンサルタントは、経営課題を「ITという具体的な仕組み」に落とし込み、実装・実行まで導く点に特徴がある。戦略を描くだけで終わらせず、「どうシステムに実装し、どう現場に定着させるか」まで責任を持つ点が、彼らの強みである。

社内SEとの違い

社内SEは内部の人間として、システムの安定運用や継続的改善を担う。事情に精通している反面、社内のしがらみに縛られやすい。ITコンサルタントは「外部の人間」としての立場を活かし、客観的かつ俯瞰的に課題を整理する。時に耳の痛い提言を行い、変革を促すことができるのが彼らの役割である。

3. ITコンサルタントの主な業務領域

IT戦略策定 経営戦略と整合したIT投資方針を描き、「何に投資し、何をやらないか」という意思決定を支援する。

DX推進支援 単なるデジタル化ではなく、業務・組織・ビジネスモデルの変革を見据え、顧客と共にDXの道筋を作る。

業務改革(BPR) IT導入ありきではなく、業務プロセスそのものを疑い、再設計することで非効率や属人化を排除する。

システム選定・導入支援 RFP(提案依頼書)作成、ベンダー評価、導入支援を通じ、企業側の代理人として中立的な判断を提供する。

プロジェクトマネジメント 複雑化するITプロジェクトにおいて、品質・コスト・進捗・リスクを統合的に管理し、ゴールへと導く。

4. ITコンサルタントに求められる価値

正しい問いを立てる力 解決策を提示する前に、「今、何を解くべきか」という問いを定義する力が、コンサルタントの価値を左右する。

利害関係を調整する力 経営層、現場、IT部門、外部ベンダーの間に入り、異なる利害を調整して合意形成を図る人間力が不可欠である。

「技術で何ができないか」を伝える力 ITの限界やリスクを正しく伝える勇気こそが、顧客との信頼関係を築く。ITコンサルタントは、夢物語を語るのではなく、現実を直視し成功確率を高めるための「伴走者」なのである。


第2章:ITコンサルタントが扱う典型的な課題

1. 経営課題としてのIT

売上・利益とITの関係 ITコンサルタントは、ITを単なる業務効率化の道具としてではなく、売上や利益に直結する経営要素として扱う。顧客データ活用や在庫最適化など、ITを「新たな収益源を生み出す装置」へと昇華させるのが彼らの仕事だ。ITを「必要経費」としか捉えていない経営者に対し、戦略投資としての視点を提供する。

コスト削減と成長投資の両立 「コスト削減か、成長投資か」という二択に対し、ITコンサルタントは両者を同時に成立させるシナリオを描く。例えば、業務自動化で浮いた人件費を新規事業へ再投資させるなど、短期的なコスト視点と中長期的な成長視点を統合し、経営判断を支援する。

IT投資のROI問題 多くの企業が悩む「IT投資の対効果(ROI)」に対し、ITコンサルタントは納得感のある説明を用意する。数値化しにくい定性効果も含めて成果を整理し、経営層が投資判断を下せるよう論理を構築することが求められる。

2. よくある失敗パターンへの介入

ツール導入の目的化を防ぐ 「他社が使っているから」とツール導入に走る企業に対し、ITコンサルタントは「待った」をかける。ツールはあくまで手段であると説き、「そのツールで何を変えたいのか」という目的を明確にさせることで、無駄な投資を防ぐ。

現場に使われるシステムへの転換 システムが形骸化する原因の多くは、現場業務との乖離にある。ITコンサルタントは現場の声を翻訳し、システム設計に反映させる「通訳者」となることで、現場の負担とならず、実際に活用される仕組み作りを支援する。

要件定義の曖昧さを排除する 「走りながら考える」という姿勢が招くプロジェクトの失敗を、ITコンサルタントは未然に防ぐ。初期段階で課題・目的・制約条件を言語化し、関係者全員の認識を揃えることで、手戻りやコスト超過のリスクを最小化する。

3. DX案件の実態と向き合う

DX=デジタル化ではないと説く ITコンサルタントは、DXが単なる紙の電子化やシステム刷新ではないことを理解している。デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織を変革することが本質であると説き、企業に現実的な変革プロセスを提示する。

人と組織の問題に切り込む 技術導入だけではDXが進まないことを知っている彼らは、業務プロセスや評価制度、組織文化にまで踏み込む。既存の評価制度が新しい働き方を阻害していないか等を点検し、全体最適の視点から組織設計を支援する。

「DX疲れ」を回避する設計 成果が見えないまま続く「DX疲れ」を防ぐため、ITコンサルタントは小さな成功体験(クイックウィン)を設計する。「仕事が楽になった」という実感を現場に持たせることで、変革へのモチベーションを維持させる手腕が問われる。

4. 中小企業特有の課題への対応

不在のIT担当者に代わる 専任のIT担当者がいない中小企業において、ITコンサルタントは「社外のIT部長」のような役割を果たす。属人的な判断を廃し、専門的な知見を持って継続的な改善をリードする。

ITコンサルティング:第2章


第2章:ITコンサルタントが扱う典型的な課題

1. 経営課題としてのIT

売上・利益とITの関係
ITは業務効率化の道具として語られることが多いが、本来は売上や利益に直結する経営要素である。顧客データを活用したマーケティング、需要予測に基づく在庫最適化、サブスクリプションモデルの構築など、ITは新たな収益源を生み出す装置になり得る。ITコンサルタントは、ITを単なる「必要経費」として捉え、経営目標との連動を怠っている企業に対し、戦略的な投資対象としての視点を提示する。

コスト削減と成長投資の両立
IT投資はしばしば「コスト削減か、成長投資か」という二択で語られる。しかし実際には、両者を同時に成立させる視点が不可欠である。たとえば、業務自動化による人件費削減は、そのまま新規事業や顧客対応への再投資につながる。ITコンサルタントの役割は、短期的なコスト視点と中長期的な成長視点を統合し、経営判断を支援することにある。

IT投資のROI問題
多くの企業が悩むのが、IT投資のROI(投資対効果)をどう評価するかという問題である。売上増加やコスト削減が数値化しにくい場合、IT投資は「効果が見えないもの」として扱われがちだ。ITコンサルタントは、定量指標と定性効果の両面から成果を整理し、経営者が納得できるロジックで説明することが求められる。


2. よくある失敗パターンへの介入

ツール導入が目的化するのを防ぐ
「他社が使っているから」「最新だから」といった理由でツール導入が先行し、本来解決すべき課題が曖昧になるケースは多い。ツールはあくまで手段であり、導入自体が成果ではない。ITコンサルタントは、ツール導入の前に「そのツールで何を変えたいのか」という目的を明確にする役割を担う。

現場に使われないシステムを回避する
導入時には期待されたシステムが、次第に使われなくなる事例は後を絶たない。その原因の多くは、現場業務との乖離にある。業務実態を十分に把握せずに設計されたシステムは、現場の負担を増やすだけになり、結果として形骸化する。ITコンサルタントには、現場の声を翻訳し、システム設計に正しく反映させる力が求められる。

要件定義の曖昧さを解消する
「走りながら考える」という姿勢が、ITプロジェクトでは致命的になることがある。要件が曖昧なまま進行すれば、手戻りや追加コストが発生し、信頼関係も損なわれる。ITコンサルタントは、初期段階で課題・目的・制約条件を言語化し、関係者の認識を揃えることでプロジェクトを正常な軌道に乗せる役割を果たす。


3. DX案件における立ち位置

DX=デジタル化ではないと説く
DXは単なる紙の電子化やシステム刷新を意味しない。デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織の在り方そのものを変革することがDXの本質である。ITコンサルタントは、デジタル化とDXの違いを整理し、企業にとって現実的かつ本質的な変革プロセスを提示する必要がある。

業務・組織・評価制度の問題に切り込む
DXが進まない最大の要因は技術ではなく、人と組織にある。従来の業務プロセスや評価制度のままでは、新しい働き方やデータ活用は定着しない。ITコンサルタントは、システムだけでなく、業務改革や組織設計、評価制度の見直しまで含めた全体最適を考える役割を担う。

DX疲れを未然に防ぐ
明確な成果が見えないままDX施策が続くと、現場では疲弊感が広がる。「また新しいツールが増えた」「仕事が楽にならない」という不満がDX疲れを生む。ITコンサルタントには、小さな成功体験(クイックウィン)を積み重ね、現場に変革の実感を持たせる設計が求められる。


4. 中小企業特有のIT課題への支援

不在のIT担当者に代わる視点
中小企業では専任のIT担当者がいないことが多く、経営者や現場担当者が兼務しているケースが一般的である。その結果、IT判断が属人的になり、継続的な改善が難しくなる。ITコンサルタントは、外部パートナーとして専門的な知見を提供し、継続的な改善をリードする役割を果たす。

ベンダーロックインの解消
特定ベンダーに強く依存し、選択肢を失う状態は中小企業にとって大きなリスクである。契約内容やシステム構成を理解できないまま任せきりになることで、コストや改善余地がブラックボックス化する。ITコンサルタントは、この構造を可視化し、企業が主導権を持てる健全な関係構築を支援する。

「何から始めればいいかわからない」への道筋
中小企業が最も抱えやすい課題は、スタート地点が見えないことである。ITコンサルタントは、現状整理から優先順位付けまでを行い、無理のない第一歩を示す伴走者としての価値を発揮する。

ITコンサルティング:第3章


第3章:ITコンサルティングの進め方と方法論

1. 現状分析(As-Is)の進め方

ヒアリングの技術
ITコンサルティングの出発点は、現状を正確に把握することである。その中心となるのがヒアリングだが、単なる聞き取りでは意味がない。重要なのは「表に出ている不満」ではなく、「なぜその不満が生まれているのか」を引き出すことである。経営者、管理職、現場担当者では視点も関心も異なるため、立場ごとに問いを変え、言葉の裏にある前提や制約を読み取る力が求められる。

業務フロー可視化
ヒアリングで得た情報は、業務フローとして可視化することで初めて共有可能な知識となる。属人的な作業、二重入力、承認待ちの滞留などは、口頭では見えにくいが、フローに落とすことで課題として浮かび上がる。ITコンサルティングにおける業務フロー可視化は、システム設計のためだけでなく、関係者の認識を揃えるための重要なプロセスである。

課題の構造化
可視化された情報をそのままでは、解決策につながらない。個別の問題を「経営」「業務」「IT」のレイヤーに分解し、因果関係を整理する必要がある。表面的な症状ではなく、構造としての課題を整理することで、初めて本質的な打ち手が見えてくる。ここにITコンサルティングの専門性が最も表れる。


2. あるべき姿(To-Be)の描き方

経営戦略との整合性
あるべき姿を描く際に最も重要なのは、経営戦略との整合性である。ITだけが先行しても意味はなく、「どの市場で、どの価値を提供するのか」という戦略が前提となる。ITコンサルティングは、経営の方向性を踏まえた上で、業務やITの在り方を具体化する役割を担う。

段階的ロードマップ設計
理想像を一気に実現しようとすると、現場への負荷が過剰になり失敗する可能性が高い。そこで重要になるのが、段階的なロードマップ設計である。短期・中期・長期に分け、「今やるべきこと」と「将来的に目指す姿」を切り分けることで、現実的な変革が可能になる。

100点ではなく70点を目指す理由
ITコンサルティングでは、完璧な設計よりも「動く仕組み」を優先することが多い。100点を目指すと時間とコストが膨らみ、環境変化に対応できなくなる。一方で70点の仕組みであっても、実運用を通じて改善を重ねれば、結果として高い成果につながる。現実解を選ぶ判断力が重要である。


3. 解決策の設計と選択

パッケージ vs スクラッチ
システム構築では、パッケージを使うか、スクラッチ開発を行うかが議論になる。業務をシステムに合わせるのか、システムを業務に合わせるのか、その選択にはメリット・デメリットがある。ITコンサルティングは、将来の拡張性や運用負荷まで含めて判断を支援する。

クラウド・SaaS活用の判断軸
クラウドやSaaSは導入のハードルが低く、スピード感のある改善が可能である。一方で、標準機能に業務を合わせる必要がある場合も多い。セキュリティ、コスト、運用体制を踏まえ、企業にとって適切な使い分けを行うことが重要だ。

内製化と外注の境界線
すべてを内製化するのも、すべてを外注するのも現実的ではない。競争優位に直結する領域は内製化し、それ以外は外注するという考え方が一般的になりつつある。ITコンサルティングは、その境界線を整理し、無理のない体制設計を支援する。


4. 実行支援と定着化

プロジェクト管理の要点
計画がどれほど優れていても、実行されなければ意味はない。進捗管理、課題管理、リスク管理を通じて、プロジェクトを安定的に推進することが重要である。ITコンサルティングは、利害関係者の調整役としても機能する。

現場を巻き込むコミュニケーション
IT導入は現場の協力なしには成功しない。一方的な説明や押し付けは反発を招く。現場の不安や疑問に向き合い、対話を重ねることが定着への近道である。

教育・運用設計の重要性
システムは導入して終わりではない。教育計画や運用ルールを設計しなければ、効果は一時的なものに終わる。ITコンサルティングの最終的な価値は、「使われ続ける仕組み」を作ることにある。