生活保護制度における「転居指導」および「転居命令」は、主に**「現在の家賃が、自治体の定めた上限額(住宅扶助基準額)を超えている場合」**に行われる行政処分や指導のことです。
非常に重要なテーマですので、法的な根拠、違い、費用、対処法についてわかりやすく解説します。
1. 根本的なルール:住宅扶助基準額
生活保護では、家賃分として「住宅扶助」が支給されますが、これには**上限(基準額)**があります。
(例:東京都23区の単身世帯なら、家賃53,700円が上限など ※自治体や世帯人数により異なります)
原則として、受給者は**「この基準額内に収まる家賃のアパート」**に住まなければなりません。
もし、生活保護を申請した時点、あるいは受給中に家賃がこの基準を超えている場合、福祉事務所(ケースワーカー)から転居するように言われます。これが転居指導・指示の始まりです。
2. 「指導・指示」と「命令」の違い
法律上、段階が分かれています。
① 転居指導・指示(生活保護法 第27条)
- 段階: 初期段階。
- 内容: 「家賃が高いので、基準額内の安いアパートに引っ越してください」という指導。
- 性質: 受給者の自立を助けるためのもので、原則として従う義務があります。
- 実務: 口頭で言われることもあれば、「指導指示書」という文書で渡されることもあります。
- ポイント: これに従って転居する場合、引っ越し費用(敷金・礼金・仲介手数料・運送費・火災保険料など)は全額、福祉事務所から支給されます。
② 転居命令(従わない場合の措置)
- 段階: 指導を無視し続けた場合の最終段階。
- 内容: 明確な行政処分として「転居しなさい」と命令されること。あまり一般的ではありませんが、指導に従わない正当な理由がない場合に行われます。
③ 保護の停止・廃止(生活保護法 第62条)
- 結果: 上記の指導や指示、命令に従わない場合、「指示違反」として**生活保護そのものを停止(一時ストップ)または廃止(打ち切り)**される可能性があります。
3. どういう時に転居指導されるのか?
もっとも多いのは以下のケースです。
- 家賃超過: 現在の家賃が、規定の上限額を超えている。
- 広すぎる: 単身なのにファミリータイプに住んでおり、家賃が高い場合。
- 取り壊し・立ち退き: 大家から退去を求められている場合。
※逆に、家賃が基準額内であれば、基本的に無理やり転居させられることはありません。
4. 転居したくない場合の「正当な理由」
福祉事務所から「転居してください」と言われても、以下のような事情(正当な理由)がある場合は、転居指導が保留(猶予)されたり、そのまま住み続けることが認められる(特別基準の適用)ケースがあります。
- 物件が見つからない: 高齢、障害、保証人がいない等の理由で、不動産屋を回っても入居可能な物件が見つからない場合。
- 対策: 「これだけ探しましたがダメでした」という活動記録(不動産屋の署名など)をケースワーカーに見せる必要があります。
- 健康上の理由: 精神疾患や重度の身体障害があり、環境の変化が病状を著しく悪化させるという医師の意見書がある場合。
- 短期間での就労見込み: 近いうちに就職して生活保護を抜ける見込みが高く、今の家賃を自分で払えるようになる場合。
- 入院・入所待ち: 近いうちに入院や施設入所が決まっており、わざわざ引っ越す合理性がない場合。
5. 転居にかかる費用(重要)
福祉事務所の指導に従って転居する場合、以下の費用は**「住宅扶助(転居費用)」として支給されます。** 自己負担ではありません。
- 敷金・礼金
- 仲介手数料
- 火災保険料・保証料
- 引っ越し業者の運送費
※ただし、これらにも上限があります。また、福祉事務所の事前の許可(見積もりの提出と承認)が必要です。勝手に契約すると支給されないので注意してください。
6. まとめ・アドバイス
もし、あなたが現在生活保護を受けていて(あるいは申請中で)、転居指導を受けた場合は以下の点に注意してください。