Religion

エステル

エステル記の整理

エステルとは

エステル(Esther, Ester)は、旧約聖書「エステル記」の主人公であるユダヤ人女性。ペルシャ王アハシュエロス(クセルクセス1世、紀元前485年〜前465年在位)の王妃となった人物。

王妃となるまでの経緯

背景

  • 先代の王妃ワシュティが王の命令に従わず、王は新たな王妃候補を探していた
  • 首都スサにエルサレムから連れてこられた捕囚民モルデカイというユダヤ人が住んでいた

エステルの境遇

  • 本名はハダサ(ペルシャ名がエステル)
  • 両親を亡くし、従兄のモルデカイの養女として育てられた
  • 姿も顔立ちも美しく、王宮に集められた美女の一人となった
  • 宦官長と王に気に入られ王妃となったが、ユダヤ人であることは明かさなかった

ユダヤ人救済の物語

事件の発端

  • 養父モルデカイが大臣ハマンへの敬礼を拒否
  • 怒ったハマンはモルデカイだけでなく全ユダヤ人の殺害を決定
  • くじ(プル)によってユダヤ暦アダル月13日が処刑日と定められた

エステルの行動

  • モルデカイの助けを求めに応じて決死の覚悟を決意
  • 王に自分がユダヤ人であることを明かし、ハマンの陰謀を告発
  • 結果、ハマンは自ら用意した処刑具で処刑され、モルデカイは高官に昇進

記念日 この出来事を記念して、ユダヤ暦アダル月14日と15日はプリム祭という祭日となっている。

歴史的評価

実在性への疑問 エステルの実在を示す歴史的資料は未発見のため、神への信頼を説くために創作された物語との見方もある。

同一人物説 ヘロドトスが記録したクセルクセス1世の王妃アメストリスとエステルを同一視する説も存在する。ただし、ヘロドトスの記述では、アメストリスはペルシア人から強く苛烈な女王として認識されていたとされる。

ルツ

ルツの概要

人物像

  • モアブ人女性で、イスラエル人マロンと結婚
  • 夫、義父、義兄の死後、義母ナオミと共にユダへ移住
  • 親戚ボアズと結婚し、ダビデ王の曽祖母となる
  • マタイによる福音書のイエスの系図に登場する5人の女性の一人

ルツ記について

  • ペルシャ時代(紀元前550-330年)にヘブライ語で執筆
  • 学者間で歴史小説か歴史物語かの見解が分かれる

物語の流れ

モアブでの出来事

  • 飢饉のため、エリメレク一家がベツレヘムからモアブへ移住
  • エリメレク死去後、息子マロンとキルヨンがルツとオルパと結婚
  • 約10年後、二人の息子も死去

ユダへの帰還

  • ナオミが故郷へ戻ることを決意
  • オルパは実家へ、ルツはナオミに同行
  • ルツの有名な言葉:「あなたの行かれる所に私も行き、あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です」

ボアズとの出会い

  • ベツレヘムで大麦の収穫期に到着
  • ルツがボアズの畑で落ち穂拾い
  • ボアズがルツの忠実さを認め、保護を約束

結婚と子孫

  • ナオミの助言により、ルツが脱穀場でボアズに保護を求める
  • ボアズが土地を買い戻し、ルツと結婚
  • 息子オベドが誕生(エッサイの父、ダビデ王の祖父)

宗教的解釈

ユダヤ教の視点

  • ルツの親切心は、モアブ族の一般的な評価とは対照的
  • ユダヤ教への改宗者の原型として位置づけられる
  • ルツ・ラバによれば、ルツはモアブ王エグロンの娘

キリスト教の視点

  • 愛ある親切(ヘセド)の模範
  • ナオミへの忠誠、落ち穂拾いの選択、結婚への同意などに現れる
  • ルーテル教会では7月16日に記念

ルツの墓

  • ヘブロンに伝統的な埋葬地
  • シャブオット(ルツ記朗読の祭日)に多くの参拝者が訪れる

エノク

エノクについての整理

名前と表記

  • ヘブライ語: חנוך, חֲנוֹךְ
  • ギリシア語: Ενώχ (エノフ)
  • アラビア語: إدريس (イドリース)
  • 英語: Enoch (イーノック、イノック)
  • 意味: 「従う者」

系譜

  • : ヤレド(イエレド)
  • : メトセラ
  • 子孫: ノアの曽祖父にあたる ※カインの息子のエノクとは別人

各文献での記述

創世記

エノクという名前は2回登場:

  1. 4章17節: カインの子エノク(別人)

    • カインが建てた町の名前の由来
  2. 5章21-24節: ヤレドの子エノク(本人)

    • 65歳でメトシェラをもうける
    • 365年生きた
    • 特徴的な記述: 「神とともに歩み、神が彼を取られたので、いなくなった」
    • 通常の死の記述がない

エノク書

  • 天使エロヒムによって天に上げられた
  • 天使メタトロンに変容させられた
  • エチオピア正教では旧約聖書の正典に含まれる

ヨベル書

  • 誕生: 第11ヨベル第5年周第4
  • : バラカ(父は天使ラスイエル)
  • : エダニ(父は天使ダネル)
  • 結婚: 第12ヨベル第7年周
  • 子の誕生: 第6年にメトシェラが生まれる

ユダの手紙(新約聖書)

  • 14-15節で『エノク書』から最後の審判に関する預言を引用
  • 初期キリスト教徒も『エノク書』を読んでいた証拠

コーラン(イスラム教)

  • 「マルヤム」の章に預言者イドリースが登場
  • 神によって高い所に上げられたと記述
  • このイドリースをエノクと同一視することがある

重要なポイント

エノクが後世で重視される理由は、通常の死の記述がなく「神が連れて行った」という特殊な表現がされているため、様々な宗教文献で言及される存在となった。

ソドムとゴモラ


ソドムとゴモラ:概要

ソドムゴモラは、旧約聖書『創世記』に登場する都市で、神の裁きにより天からの硫黄と火で滅ぼされたとされています。後の預言書でも、神の裁きと滅びの象徴、悪徳や堕落の代名詞として用いられています。

滅亡の経緯

  • 預言者アブラハムの甥ロトとその家族は、神の使いによってソドムから脱出しました
  • 聖書にはソドムの滅亡が詳しく描かれていますが、ゴモラの滅亡の具体的描写はありません
  • ソドムとゴモラに加え、アデマとゼボイムも同時に滅ぼされました(これらの滅亡描写も省略されています)

五つの都市

これらは「五つの都市(Pentapolis)」と呼ばれ、死海周辺の低地(ヨルダン渓谷)に位置していたとされます。五都市のうち、ロトの家族が逃げ込んだゾアルを除く四都市(ソドム、ゴモラ、アデマ、ゼボイム)が神の裁きで滅ぼされ、荒廃の象徴とされています。

罪の内容

聖書における記述

  • **新約聖書「ユダの手紙」**では、ソドムとゴモラが「みだらな行い」と「不自然な肉の欲」によって永遠の火の刑罰を受けたと記されています
  • 『レビ記』18章では、性に関する規定として、近親相姦、姦淫、同性間の性行為、獣姦などが禁じられています

イスラム教の記述

クルアーンにも同様の物語が述べられており、預言者ルート(ロト)に従わなかった民が滅ぼされました。他の民(ノアの洪水、アード族、サムード族など)が偶像崇拝で滅ぼされたのとは異なり、ソドムの住民は男色などの風俗の乱れによって滅ぼされたとされています。

地理的位置

ソドムとゴモラの廃墟は死海南部の湖底に沈んだと伝えられています。これは『創世記』に記された「シディムの谷」とアスファルトの穴の描写が、死海南部の状況と類似していることに基づいています。ただし、死海南岸付近の遺跡と結びつけようとする研究者も存在します。

サウル

サウル王の概要

  • イスラエル王国の最初の王(紀元前10世紀頃)
  • ベニヤミン族出身のキシの息子
  • 背が高く美しい若者

王になった経緯

サムエルが士師として統治していた時代、民から王を求める声が高まりました。サムエルは王政の弊害を警告しましたが、民の要望により神の指示で王を選ぶことになります。ロバを探していたサウルがサムエルと出会い、神に選ばれた者として油を注がれました。

王としての業績と転落

  • 初期の成功:アンモン人に包囲されたヤベシ・ギレアデを救出し、王として歓迎される
  • 勇敢な戦い:息子ヨナタンや家臣と共にペリシテ人や周辺民族と戦う
  • 神の命令違反:アマレク人との戦いで神の命令に完全に従わず、神に見放される

ダビデとの関係

サムエルは密かにダビデに油を注ぎます。ダビデはゴリアテを倒して有名になり、竪琴の名手としてサウルに仕えましたが、サウルは彼の人気を妬んで命を狙いました。ダビデは何度も反撃の機会がありながら、「神の選んだ人」として決してサウルに手を出しませんでした。

最期

ペリシテ軍との戦いでギルボア山に追い詰められ、息子たちと共に剣の上に身を投げて自害しました。

死後

遺体はヤベシ・ギレアデの勇士たちに回収され、後にダビデによって父キシの墓に葬られました。四男イシュ・ボシェテが第2代王になりましたが、暗殺後にサウル王朝は滅亡し、ダビデ王朝が始まります。

使徒パウロの手紙

使徒パウロの手紙(新約聖書に収められている13通の手紙)が生まれた歴史的背景には、当時のローマ帝国の情勢初期教会の急激な拡大、そしてパウロ自身の置かれた状況が複雑に絡み合っています。

これらは単なる「神学論文」として書かれたのではなく、**「現場で発生した緊急の問題に対処するための手紙」**として書かれました。

主な背景要因を以下の5つのポイントに整理して解説します。


1. 宣教旅行と「物理的な距離」

パウロは地中海世界を巡る3回の大規模な宣教旅行を行い、各地(現在のトルコやギリシャ)に教会を設立しました。しかし、彼は一つの場所に留まり続けることができませんでした。

  • 背景: パウロが次の町へ移動した後、残されたばかりの若い教会にはすぐに問題が発生しました。
  • 動機: 自分が現地に行けない代わりに、手紙によって指導、叱責、励ましを送る必要があったのです。
    • 例:『テサロニケ人への手紙』は、パウロが去った直後の迫害に苦しむ信徒を励ますために書かれました。

2. 「ユダヤ人」対「異邦人」の対立(律法問題)

初期キリスト教最大の問題は、**「異邦人(非ユダヤ人)がキリスト教徒になる際、ユダヤ教の律法(割礼や食物規定)を守る必要があるか」**という点でした。

  • 背景: エルサレムから来た保守的なユダヤ人キリスト教徒(ユダヤ主義者)が、パウロが設立した教会に入り込み、「パウロの教えは不完全だ、割礼を受けなければ救われない」と教え始めました。
  • 動機: パウロはこれに猛反発し、「信仰義認(行いではなく信仰によって義とされる)」という神学を確立するために筆を執りました。
    • 例:『ガラテヤ人への手紙』や『ローマ人への手紙』はこのテーマが中心です。

3. 異教文化との衝突と道徳的混乱

パウロが伝道した地域(コリントやエペソなど)は、ギリシャ・ローマの多神教文化や哲学が色濃い都市でした。

  • 背景: キリスト教徒になったばかりの人々は、以前の異教的な生活習慣(性的放縦、偶像礼拝、社会的階級差別など)を教会内に持ち込んでしまいました。
  • 動機: パウロは、キリスト教徒としてあるべき倫理観や、教会内の秩序(礼拝の守り方、聖餐式のあり方)を具体的に正す必要がありました。
    • 例:『コリント人への手紙』は、教会内の派閥争い、近親相姦、訴訟問題、偶像に捧げた肉の問題など、具体的なトラブルへの回答集です。

4. 切迫した「終末観」

初期の教会、そしてパウロ自身も、当初は「イエス・キリストの再臨(世の終わり)は、自分たちが生きている間にすぐ起きる」と信じていました。

  • 背景: 「もうすぐ世界が終わるなら、働かなくてもいいのではないか?」「再臨の前に死んだ人はどうなるのか?」という混乱が信徒の間に広がりました。
  • 動機: パウロは誤った終末論を正し、再臨を待ち望みつつも、現実社会で誠実に生きるよう諭す必要がありました。

5. 投獄という「制約された環境」

パウロのキャリアの後半は、ローマ帝国による拘束(軟禁や投獄)の連続でした。

  • 背景: 自由に動けなくなったパウロにとって、手紙は唯一の「宣教の武器」となりました。
  • 動機: 獄中から、教会の霊的成長を願い、また自身の代理人(テモテやエパフロデトなど)を派遣するために手紙を書きました。
    • 例:『フィリピ』『エペソ』『コロサイ』『フィレモン』は「獄中書簡」と呼ばれます。ここでは論争よりも、キリスト論の深まりや教会の一致が強調されています。

まとめ:パウロ書簡の歴史的特異性

パウロの手紙が生まれた背景には、**「パックス・ロマーナ(ローマの平和)」**というインフラがありました。

  • 共通語(コイネー・ギリシャ語): どこへ手紙を送っても通じる言語があった。
  • 道路網と航路: 手紙を運ぶ使者(協力者たち)が安全に移動できた。

パウロの手紙は、机上の空論ではなく、「迫害」「内部対立」「文化摩擦」という泥臭い現実の中で、福音(キリストの教え)をどう適用するか苦闘した記録であると言えます。

申命記

旧約聖書の5番目の書である**「申命記(しんめいき)」**について解説します。

申命記は、単なる法律のリストではなく、**モーセによる「遺言」であり、民への「愛と警告の説教」**です。

以下に、要点を分かりやすくまとめました。


1. 申命記とは?(タイトルの意味)

  • 位置づけ: 「モーセ五書(トーラー)」の最後の巻です。
  • 名前の由来: 英語では Deuteronomy といい、これはギリシャ語で**「第二の律法」**を意味します。
  • 日本語の「申命記」: 「命(神の命令=律法)を申(重ねて)説く」という意味です。
    • シナイ山で一度律法が与えられましたが、その時の世代は荒野で死に絶えました。約束の地に入る**「新しい世代」に向けて、もう一度律法を語り直した**のがこの書です。

2. 時代背景と舞台

  • 場所: ヨルダン川の東側、モアブの平原(約束の地カナンを目の前にした場所)。
  • 状況: イスラエル民族のエジプト脱出から40年が経過しています。
  • 話し手: 120歳になった指導者モーセ。彼は約束の地に入ることが許されなかったため、死を前にして民に最後の演説を行います。

3. 全体の構成(3つの説教)

申命記は、大きく分けてモーセの3つの説教で構成されています。

  1. 歴史の回顧(1章〜4章)
    • 過去40年間の荒野の旅を振り返ります。「神はいかに忠実であったか、民はいかに不従順であったか」を語り、過去の失敗から学ぶよう促します。
  2. 律法の再確認と適用(5章〜26章)
    • 十戒の再確認(5章)。
    • 礼拝、祭り、裁判、戦争、食物規定、社会正義(貧しい人への配慮)など、新しい土地で生きるための具体的なルールを説きます。
  3. 契約の更新と未来への警告(27章〜34章)
    • 神に従う時の「祝福」と、背く時の「呪い」の提示。
    • 後継者ヨシュアの任命。
    • モーセの歌、祝福、そしてモーセの死。

4. 最も重要なメッセージ:「シェマ」

申命記の中で最も有名で、ユダヤ教において最も重要な聖句が6章にあります。これを**「シェマ(聞け)」**と呼びます。

「聞け、イスラエルよ。我らの神、主は唯一の主である。あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。」(申命記 6:4-5)

  • 唯一神信仰: 多神教の世界(カナン)に入っていく民に対し、「神はただひとり」であることを強調しました。
  • 愛の命令: 律法は単なる規則厳守ではなく、「心から神を愛する」関係性が土台であることを教えています。
    • ※イエス・キリストも「最も重要な戒め」としてこの箇所を引用しました(マルコ12:29-30)。

5. 申命記のキーワード:祝福と呪い

申命記の神学的な核心は**「選び」**にあります。 モーセは民の前に「いのちと死、祝福と呪い」を置き、どちらを選ぶか決断を迫ります(30章19節)。

  • 従順 = 祝福: 神を愛し、律法を守るなら、国は栄え、豊かな実りがある。
  • 不従順 = 呪い: 神を捨て、偶像を拝むなら、国は滅び、民は離散する。

この「申命記的歴史観(因果応報の原則)」は、その後のヨシュア記から列王記までの歴史書のベースとなっています。

6. 新約聖書との関係

申命記は、新約聖書で非常に多く引用される書の一つです。

  • イエスの荒野の誘惑: イエスが悪魔から誘惑を受けた際、撃退するために引用した3つの聖句は、すべて申命記からのものでした(8:3, 6:16, 6:13)。
  • 律法の完成: イエスは申命記の律法を廃止するのではなく、その精神(神への愛と隣人への愛)を完成させる者として描かれています。

まとめ

申命記は、**「神の愛に対する応答として、人間はどう生きるべきか」**を説いた書です。 新しい生活(約束の地)に入る前に、「過去を忘れず、神を第一とし、愛を持って御言葉に従え」という、老指導者モーセの熱い魂の叫びが記されています。

キリストの弟子

イエス・キリストが選んだ12人の主要な弟子は、「十二使徒」と呼ばれています。

新約聖書に記されている彼らの名前は、主に以下の通りです。

  • ペテロ(シモン)
  • アンデレ(ペテロの兄弟)
  • ヤコブ(ゼベダイの子、大ヤコブ)
  • ヨハネ(ゼベダイの子、ヤコブの兄弟)
  • フィリポ
  • バルトロマイ(ナタナエルとも言われる)
  • トマス
  • マタイ(取税人)
  • アルパヨの子ヤコブ(小ヤコブ)
  • タダイ(ユダ、またはヤコブの子ユダとも言われる)
  • 熱心党のシモン
  • イスカリオテのユダ(後にイエスを裏切った人物)

なお、イスカリオテのユダが脱落した後、マティアが新たに選ばれて使徒に加えられています。

イエスには、この12使徒の他にも多くの弟子(信徒)がいました。

使徒

使徒(しと)

概要

使徒は、狭義にはイエス・キリストの12人の高弟を指すが、それに近い弟子(パウロ、七十門徒など)にもこの語が用いられることがある。原義は、重要な役割を果たしたキリスト教の宣教者(「神から遣わされた者」)および、その宣教者の総称である。

語源

原語のギリシア語は ἀπόστολος (apostolos) で、「遣わされた者」を意味する。転じて「使者」「使節」をも指す。

他の西洋語でもギリシア語の形を踏襲している:

  • ラテン語: apostolus
  • フランス語: apôtre
  • ドイツ語: Apostel
  • 英語: apostle

「使徒」という訳語は、漢訳聖書から継いだものである。

イスラム教においては、ラスール(rasūl, رسول)という語が同じく「使者」の意であり、キリスト教の使徒と似た意味に用いられている。

新約聖書における使用

新約聖書では、ἀπόστολος の語は以下の文書に用いられている:

  • マルコによる福音書
  • マタイによる福音書
  • ルカによる福音書
  • 使徒言行録
  • パウロ書簡
  • ヘブライ書
  • ペトロ書
  • ユダ書
  • ヨハネの黙示録

このうち、マルコ、マタイ、ヘブライ書は文脈上、この単語を単に「派遣されたもの」または「使者」という意味で用いている。他の文書では、固有名詞的に、何か権威ある称号のようなもの(日本語訳でいう「使徒」)として使われている。

ルカの十二使徒観

ルカ(の著者)の十二使徒観ははっきりとしている。ルカ文書(ルカ福音書と使徒言行録)によれば、「十二使徒」とは、最初にイエスによって選ばれた12人の弟子集団である。

十二使徒の条件

  • 旧約時代の神の民・イスラエルの12部族との関連で、12人という枠は維持すべきもの
  • イエスの復活の証人であること
  • イエスと生前をともにした者であること

ルカははっきりとパウロを使徒と認めている。

パウロ書簡による使徒の定義

パウロ書簡は、使徒の基準を以下のように伝えている:

  • 復活した主イエスの証人であること
  • 主イエスに使徒として召されたこと

パウロの使徒観の特徴

  • パウロは「使徒」としての権威を強調している
  • このパウロの使徒としての権威は、使徒ペトロも認めている
  • パウロは、使徒は12人(あるいは、自身を含めて13人)に限定していない

近代批評学では、パウロがルカと同じく、主の兄弟ヤコブを「使徒」とは呼ばないことにも、「使徒」の定義の謎が残るとされる。エルサレム教会の権威が失墜した時期以降、恐らく「使徒」の厳しい定義も消えていったと考えられる。

正教会やカトリック教会は、パウロを「使徒」と呼んで崇敬し、それは現代にまで至る。

十二使徒(十二人)

「十二使徒」は極めてルカ的概念である。ただし、ルカは「十二使徒」という言葉そのものは用いていない。新約中、この言い方は、「ヨハネ黙示録」21章14節のみである。

新約聖書内では、ルカ福音書と使徒言行録を除いては、使徒を12人に限定していないが、イエスの高弟である「十二人」(δώδεκα)については、幾つかの文書に記されている。彼らは、イエスから悪霊を払うための権能を授けられたという。12という数字は、イスラエルの12部族に対応するものと思われる。

十二人の記載

「十二人」のすべての名は、「マルコ福音書」に記されており、「マタイ」、「ルカ」、「使徒言行録」は、これを写したものである。「ヨハネによる福音書」には、「十二人」の存在は語られるが、内数人のみの名が挙げられている。他に、「第1コリント書」、「ヨハネの黙示録」などにも記載がある。

使徒言行録によれば、イスカリオテのユダによる欠員をマティアで埋めたという。

史実性について

福音書によって構成員の名前が異なること、ほとんど言及されない人物もいることから、イエス時代の史実でないと考える研究者もいる。ルカの「十二使徒」という概念は、後に「正統派」教会においてドグマ化し、広く定着した。

亜使徒(Equal to the apostles)

ある地域に初めてキリスト教を伝えた人物や、特定地域の宣教に大きな働きを示した人物に、「使徒」の称号を冠することも一般的である。正教会では、これを亜使徒(使徒に準ずる、あるいは使徒と同等の者の意)と呼ぶ。

  • 東洋の使徒フランシスコ・ザビエル
  • スラブの使徒、またはスラブの亜使徒キリル(チリロ)とメトディウス(メフォディ)
  • 日本の亜使徒聖ニコライ

イスラム教における使徒

イスラム教での使徒(ラスール)とは、ある特定の共同体の中から選ばれ、その共同体に遣わされて、神(アッラーフ)から授かった言葉を伝える使命を啓示された者のことである。

ムハンマド

ムスリム(イスラム教徒)にとっては、ムハンマドこそ全人類・全ジンに遣わされた最後の使徒に他ならず、その事実を信じることがイスラム教の根幹のひとつである。そのため、シャハーダやアザーンには「ムハンマドは神の使徒なり」という文言が含まれる。

イスラム教

イスラム教がイエス・キリスト(アラビア語名:イーサー)を預言者の一人だと考える主な理由は、イスラームの一神教(タウヒード)の教義と、預言者の連鎖という考え方に基づいています。

イスラームにおけるイエスの位置づけは以下の通りです。

1. 唯一神(アッラー)のメッセージの伝達者であるため

  • イスラームでは、神(アッラー)は人類に正しい道を示すために、**預言者(ナビー)使徒(ラスール)**を時代や民族ごとに送り続けてきたと考えます。
  • イエス(イーサー)は、モーセ(ムーサー)に続き、最後の預言者ムハンマドの前に、「インジール(福音書)」という新しい啓示を持ってイスラエルの子ら(ユダヤの民)を導くために遣わされた、偉大な預言者の一人であると信じられています。
  • 預言者の主な役割は、唯一神アッラーを崇拝すること神の教えに従うことを人々に伝えることです。イエスもこの役割を担ったとされます。

2. 厳格な一神教(タウヒード)の教義に基づくため

  • イスラームは神の絶対的な唯一性を厳格に守ります。神は唯一であり、分け隔てられたり、人間と同じ性質を持つことはないと考えます。
  • このため、キリスト教の教義である**「三位一体」や、イエスが「神の子」であり「神性」を持つという考えは拒否**されます。
  • イスラームの見解では、イエスは奇跡的な処女懐胎で生まれた特別な人物ですが、あくまで**「神のしもべ」であり「人間」**の預言者であると位置づけられます。彼を神として崇拝することは、唯一神信仰に反するとされます。

3. クルアーン(コーラン)に登場する奇跡と誕生

  • イスラームの聖典『クルアーン』には、イエス(イーサー)と彼の母マルヤム(マリア)について敬意をもって詳細に記述されています。
  • クルアーンは、イエスが父親なしで処女マルヤムから奇跡的に生まれたことや、病人を癒やし、死者を生き返らせるなどの数々の奇跡を神の力によって行ったことを認めています。
  • これらの奇跡は、彼が神に選ばれた偉大な預言者であることのであると見なされます。

要するに、イスラム教徒にとって、イエスはムハンマドに先立つ神の真実のメッセージを伝えた特別な奇跡を伴った人間の預言者であり、信仰の対象としての神ではないのです。